TradingKey - 執筆時点で国際金価格は力強く上昇し、スポット金は一時1オンス=3,489ドルに達し、4月23日以来の高値を更新した。銀も一気に40ドルの大台を突破し、10年以上ぶりの水準となった。今回の上昇の背景には、米国の金融政策独立性に対する深刻な懸念と雇用市場の低迷という二重の要因がある。
【金の分時チャート、出典:TradingKey】
市場では9月のFRB利下げ観測が急速に高まっており、金の投資妙味を押し上げる主要因となっている。サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁のハト派的発言がこの見方を強めた。彼女は労働市場が下振れリスクに直面しているとし、「今こそ利下げが必要だ」と強調した。
【FRB利下げ確率予想、出典:cmegroup.com】
FRB理事のクリストファー・ウォーラーも7月の利下げ支持を表明し、民間雇用の伸びは「ほぼ停滞状態」にあると指摘、経済が悪化するまで待つべきではないと主張した。
ゴールドマン・サックスやBCAリサーチなどの調査機関も、米国の雇用市場は「失速寸前」にあり、失業率が自己強化的に上昇し始めれば、景気への圧力は一段と高まると警告している。
こうした中で、トランプ大統領によるFRB独立性への露骨な介入が、市場の政策不確実性を一層高めている。トランプ氏はパウエル議長を度々批判するだけでなく、「住宅ローン詐欺」を理由に理事リサ・クックを解任すると発表。この措置は現在司法判断に直面している。
現地時間月曜日、ECBのラガルド総裁は、トランプ氏によるFRB支配の試みが米国のみならず世界経済にとって「深刻な脅威」となり、米国経済の安定的基盤を損なうと警告した。
中央銀行の独立性への揺さぶりは、実質的にドル信用の根幹を動揺させるものだ。City Indexのアナリスト、マット・シンプソン氏は、米連邦控訴裁がトランプ氏の一部関税を「違法」と判断したことでドル相場が下押しされ、さらに政治による金融政策への干渉が投資家を金へと向かわせていると指摘。金は利息を生まない資産である一方、低金利や通貨信用が疑問視される局面で強さを発揮する。
現在、弱含む経済指標と中央銀行への政治圧力が相まって利下げサイクル入りを示唆しており、これは金保有の機会費用を低下させるだけでなく、安全資産としての役割を一段と強化している。