Robyn Mak
[香港 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国のレアアース(希土類)など重要鉱物に対する締め付けか、それとも米国主導の先端半導体の支配か──。どちらがより長く続くかの答えが、今後数年間の米中関係を形作る要因になるだろう。
世界の2大経済大国の関係は現在、不安定な膠着状態にある。両国は今月初め、互いの輸入品に3桁の関税をかけるのを回避するため、関税停止をさらに3カ月延長することで合意した。西側が中国のレアアース供給網に依存し、中国が米国と同盟国が支配する先端半導体を必要としているため、敵意は今のところ抑制されている。
両国は国家安全保障を理由に輸出規制や認可規則を行使して、互いのアクセスを制限している。半導体と重要鉱物はいずれも電子機器、自動車、人工知能(AI)、軍事システムにとって不可欠であることから、より幅広い分野で経済的に競争する上で駆け引きの主要な武器となっている。
トランプ米大統領が今年春、追加関税を課した際、両国は報復的な輸出規制を強化して要求水準を引き上げた。しかし米国は5月、中国のレアアース供給継続を交換条件に半導体大手エヌビディアNVDA.Oの「H20」半導体の輸出禁止を撤回した。7月の対米レアアース輸出は前月比660%急増し、エヌビディアは今や今後3カ月の売上高を最大50億ドルと見込んでいる。
経済的な「相互確証打撃」の見通しが、対立激化の抑止力になっていることが伺える。
米国は自国のレアアース供給網を整備しようと取り組んでいる。レアアース自体は地殻に豊富に存在するが、採掘・分離・精製はコストが高く環境負荷が大きい。市場規模は小さく、2024年の世界の取引総額はわずか35億ドル程度で、世界の半導体市場の6000億ドル超に比べれば微々たる数字だ。
米国防総省は最近、ラスベガスに拠点を置き米国内でレアアース鉱山を唯一運営するMPマテリアルズMP.Nに4億ドルを出資し最大株主となった。同様のレアアース開発支援策が相次ぐ可能性があるだろう。トランプ政権は米国内の半導体の製造促進を目的としたCHIPS法の予算から、少なくとも20億ドルを重要鉱物の開発事業の資金に振り分けることを検討している。米国は中国のIT大手華為技術(ファーウェイ)やAI半導体大手の中科寒武紀科技(カンブリコン)688256.SSが国産半導体の飛躍的進歩を実現するまでに、中国の重要鉱物に対する依存度合いを減らせることができると見込んでいる。
一見すると、米国は両国間の競争に勝てる見込みがかなりある。ファーウェイの半導体開発は行き詰まっているように思われる。米国や日本、オランダ、韓国、台湾が不可欠な技術や精密機器、ソフトウエアを供給しているためだ。このような障壁を乗り越えたとしても、エヌビディアの最先端技術に遅れずについて行ける保証は全くない。
こうした状況と対照的に、世界でレアアース分離・精製能力と磁石製造の約90%のシェアを占めるという中国の独占的な地位は、まだつけ入る余地があるように見える。オーストラリアやマレーシア、日本、欧州連合(EU)はとりわけ、精製能力や磁石製造を拡大している。中国政府が人材や技術が流出するのを防ぐため国内企業に対する規制を強めているのも不思議でない。
ただ、資金的また環境的な障壁を乗り越えるのはさらに時間がかかり骨の折れる仕事になるだろう。中国が世界的な供給、鉱業生産者、精製業者で大きな地位を占めていることを考慮すれば、価格を低く維持して西側政府や企業の投資意欲を押さえ込める。
しかしながら、米中のどちらかが優位に立ったとしても他の分野で相手に対する依存が残る。米国は航空機部品のようなハイテク製品を輸出規制したり金融制裁を課したりできるだろう。一方の中国は、アップルやエヌビディアの中国国内の事業運営が難しくなるように仕向けられるだろう。半導体とレアアースと同じように、こうした分野の相互依存を断ち切るまでに数十年を要するだろう。しかし少なくとも、こうした痛みの共有が、貿易摩擦の遮断器として機能しているのだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)