Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 18日 ロイター] - 投資家たちは中東で戦争が起きたために原油価格の上昇だけでなく、多くが年初時点で引き下げていたドルの想定水準以上に強いドルという事態も予期しなければならないのかもしれない。
米国とイスラエルが2月28日にイランを攻撃して地域一帯を紛争に巻き込み、ホルムズ海峡の実質的な閉鎖で世界の原油供給の約5分の1を遮断して以降、ドルは最もはっきりした勝ち組の「安全資産」の一つとして姿を現した。
ドルはスイスフランCHF=や円JPY=を含む他の全ての通貨を圧倒しており、米国債や金のようなその他の伝統的な安全資産を大幅に上回る投資収益を上げている。ドルに対して弱気な見方だった2026年の市場コンセンサスは突然に全く昔の話になってしまった。
想定外のドル高は広範囲に波紋を広げて世界貿易、経済成長、金融市場に影響を及ぼす可能性があるだろう。他の条件が同じならば、ドルの上昇は金融環境を引き締めて米企業の収益を圧迫し、世界貿易を停滞させる。ドル建て債務を抱える新興国経済もまた極めて影響を受けやすい状態にある。
ドルの安全資産としての魅力は直感的に理解できる。米国はエネルギーを自給しており、米国産原油先物CLc1が1バレル=90ドルを超えて全く影響がないわけでないにしても、ガソリン価格高騰の脅威に脆弱ではない。
しかし日本はエネルギーのほぼ全てを輸入しているため、はるかに苦しい立場にある。円の魅力は今回の危機で薄れており、一方でスイス国立銀行(中央銀行)はスイスフランが過度に上昇しないように介入すると警告している。
一方、米国株と米国債は戦争開始以来、好調な投資収益を上げている。ウォール街の際立った好調ぶりは目を見張るばかりで、米国債もまた他の先進国債券市場、とりわけ英国債に対して優位に推移している。
こうした事情を全てまとめると、ドルの先行きはいきなり非常に明るくなった。主要通貨バスケットに対するドルの価値を幅広く示すドル指数CLc1は今月既に2%上昇している。この上昇ペースが持続する可能性は低いだろうが、戦争やその余波が夏以降まで長引けばさらに上値を追う余地がある。
HSBCのアナリストたちは「原油価格、リスク回避姿勢、資産横断的な価格変動の激しさの全てが高い水準で推移すれば、ドルが優位性を保つ可能性が高い」と述べている。
<追い風が逆風に>
こうした状況は幅広い市場が年初時点で予測した様子と異なっている。当時は米連邦準備理事会(FRB)の独立性を巡る懸念や利下げ期待のために、ドルに対して弱気な見方が大勢だった。金融先物市場は12月までに少なくとも50ベーシスポイント(bps)の利下げを織り込んでいたが、現在はわずか0.25%の利下げすらも完全に織り込んでいない。
ドル指数は1月末に4年ぶりの低い水準まで落ち込んだがその後5%反発した。一段と上昇すれば、26年に関する多くの見通しを再考せざるを得なくなるだろう。
その一つが世界貿易だ。トランプ米大統領の関税政策にもかかわらず、世界貿易が予想以上に底堅さを保っている背景には、昨年ドルが約10%下落したことがある。こうした点はあまり報じられていないが、オックスフォード・エコノミクスの主任エコノミスト、フェリペ・カマルゴ氏はその重要性を指摘する。
25年の米国を除く世界の輸出量は5.3%増加し、過去10年間平均の3%を大幅に上回る伸びを示した。ドル安はドル支配の貿易システムでドル建て商品の価格を引き下げ国際的な貿易連携を強化する。
カマルゴ氏の試算によると、ドルの価値が10%上昇すれば世界の貿易量は現在の基本予測の水準を6―8%下回り、昨年の成長分を全て帳消しにする可能性がある。貿易量は、そのような見立てだとトランプ関税導入前の昨年初めの予測を5%も下回ることになるだろう。
昨年のドル安は同様に米企業の収益にとっても力強い追い風となった。今年のドル相場が安定すればその追い風は無くなり、ドル高が追い風を逆風に変えるだろう。
なぜならば、S&P総合500種採用銘柄の企業は売上高の30%から40%を海外で稼ぎ出しているからだ。ハイテク部門はこの比率が50%を超えており、ハイテク企業がどの程度米企業全体の収益をけん引しているのかどうかを考慮すれば影響力はとても大きい。ハイテク株はS&P総合500種で時価総額の約3分の1、利益成長の約5分の1をそれぞれ占めている。
ドルが今年力強く上昇すれば市場のコンセンサスから大きく外れた動きとなるだろう。しかし、投資家たちに26年の見通しを全て見直させるためにそれほど極端な動きとなる必要はないだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)