
Dawn Kopecki
[ニューヨーク 20日 ロイター] - 投資家がテック株に群がり経営幹部が自社で開発できない人工知能(AI)技術の買収に高いプレミアムを支払っている状況で、AIブームは金融市場に新たなリスクをもたらしていると、金融業界のトップ2人が警告した。
今週ニューヨークで開催された「ロイター モメンタム AI 2025」会議での発言。投資銀行ラザードのマネージングディレクター、マシュー・ダンジグ氏はパネルディスカッションで、AIは投資家と企業幹部の双方にとって「1番の話題」になっていると指摘。ヘッジファンドのシタデルの最高リスク責任者(CRO)であるジョアンナ・ウェルシュ氏も同様の見解を示した。企業は競争力を維持するためにAI戦略を明確にしようと急ぎ、しばしばAI機能や独自のデータセットを買収していると述べた。
ダンジグ氏は「潜在的なターゲットとなる企業はいずれもAIを巡る自社の方向性を模索している」と発言。投資家が現在のファンダメンタルズでなく潜在的な利益を当てにしているため、企業価値評価は歴史的に高い水準まで押し上げられているという。「未来に対して対価を支払おうとしているのが市場だ」とした。
コンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、AI業界は成長資金として2030年までに約7兆ドルの資金調達が必要になるという。しかも、それはデータセンターだけの資金だ。投資家はしかし、成長資金を調達するために必要な全ての負債を支えるために、システム内のレバレッジが増大していたり、収益が足りなかったりするという懸念をほとんど無視している。
熱狂状態の裏には構造的なもろさが潜んでおりほころびが出始めている。
ウェルシュ氏は710億ドルの運用資産を持つシタデルがいつでも起こりうる下落局面に備えていると語った。このヘッジファンドのリスクモデルは現代の市場が激しい価格変動の衝撃を増幅させると示している。「市場はただただ速く動くようになっている」と彼女は語った。「こうしたボラティリティーの急上昇や脈動はより激しくなり、より速く勢いを失い、より頻繁に繰り返される」という。
ウェルシュ氏は減価償却のサイクルが4年程度の資産に対して償還期間が30年や40年という質の高い社債発行が増加していると指摘した。つまり、企業は資産が時代遅れになった後も負債を長期間返済し続けているのだ。社債の償還期限と減価償却のサイクルのずれはキャッシュフローを圧迫するためリスク増大の指標でもある。
社債格付けの下位では、発行体と投資家が信用力の低いハイテク企業のゼロクーポン転換社債に対して「同等の熱意」を持っていると彼女は語った。ゼロクーポン転換社債は企業の業績が良好なら投資家に株式を与え、経営破綻時は債券保有者とともに優先的な支払いを受けるが、利息を支払わないためよりリスクの高い投資とみなされている。