
Karen Kwok
[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 対話型人工知能(AI)のチャットGPTに聞いて見るだけの大きな価値がある質問として、チャットGPTを開発した米オープンAIが上場した場合、どれだけの評価額になるのかが挙げられる。答えを見つけ出す方法の1つは、オープンAIの株式11%を保有するソフトバンクグループ(SBG)9984.Tの価値に目を向けることだ。Breakingviewsが、SBGの保有する他の資産を除外する形で計算したところでは、現在のソフトバンク株価に基づくとオープンAIの評価額は約7500億ドルと、直近で算出された評価額より50%も高くなる。
オープンAIに対するSBGの孫正義会長兼社長の強気姿勢は今のところ実を結んでいる。4月にSBGが出資した際のオープンAIの評価額は3000億ドル、その後従業員から株式を取得した時点では5000億ドルになった。SBGは総額で108億ドルを投じて11%の株式を保有し、225億ドルの追加出資を約束している。この大きな持ち分比率によって、公開市場の投資家はオープンAIに対する間接的なエクスポージャーを取得する機会が与えられ、これらの投資家による未公開企業の評価額を見積もる手掛かりも得られる。
そうした手順を見ていく上で、まずはSBGの資産を考えてみる。SBGは英半導体設計大手アームや米携帯電話のTモバイルUSTMUS.Oなどの上場企業株式を保有するとともに、通信企業ソフトバンクを傘下に置き、18日時点の合計時価総額は約1540億ドル。先週発表された四半期決算に基づくと、SBGはビジョン・ファンドと幾つかの未上場スタートアップの持ち株の価値は1070億ドルと評価した。合算すればSBGの総資産は2610億ドルに上る。
次はオープンAIの価値だ。直近評価額の5000億ドルを使えば、SBGの持ち分11%は550億ドルで、これをSBGの総資産から差し引くと残りは2060億ドルとなる。
そしてSBGの時価総額は、18日終値換算で1730億ドル。純債務の420億ドルを加えると企業としての価値は2150億ドルと、総資産を下回る。
だがこれで全てではない。公開市場投資家は通常、当該企業の資産の被流動性やわかりにくさを反映して株価のディスカウントを求める。孫氏のような直感で動きがちな経営者がコントロールする企業なら、ガバナンスのリスクを考慮したディスカウントも妥当になる。そこでSBGの株主が30%のディスカウントを要求していると想定すれば、実際の総資産価値は2890億ドル近くまで膨らむ。
この数字とSBGの他の資産の評価額2060億ドルの差から、保有するオープンAI株の評価額は830億ドルで、オープンAI株全体の評価額は7560億ドル相当だと示唆される。
もちろんSBG株のディスカウント幅には議論の余地がある。30%という割引率は過去と比べると小さい。2023年4月以降、SBGの時価総額は平均で純資産より49%低い水準で推移してきた。これは孫氏が行った共有オフィスのウィーワークへの投資の失敗などで、次の大きな技術革新を見定める同氏の能力に疑念が浮上したことが響いている。
しかし最近になってディスカウント幅は縮小した。世界的なAIブームが追い風になり、SBGが保有する上場企業株の価値を高めているからだ。例えば2016年に320億ドルで取得したアーム株の評価額は1490億ドルに増大した。
SBG株の最近の上昇は、株主がオープンAIへの投資機会を積極的に要望していることも一因だ。PMインサイツによると、今月12日時点で、流通市場の投資家はオープンAIの評価額を約6000億ドルとする前提で未公開株を取引していた。
オープンAIが組織再編を通じてより一般的な企業構造に移行するとともに、株式上場は現実味を帯びつつある。サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)とサラ・フライア最高財務責任者(CFO)の上場を巡る発言は現時点で控えめだが、ロイターは関係者の話としてオープンAIが来年後半にも新規株式公開(IPO)を申請することを検討中と伝えている。
アルトマン氏は上場を急がないと表明している。ただジ・インフォメーションによると、オープンAIが年間に消耗する現金は来年が170億ドル、2027年が350億ドル、28年には470億ドルに膨らむ見通しで、この穴埋めには500億-800億ドルの新たな資金が必要になる。それだけの金額をプライベート市場で調達するのは難しいだろう。
SBG株主のオープンAIに対する姿勢が正しいとすれば、1080億ドルの出資に対して相当大きなリターンを稼いでいることになる。オープンAIの評価額が3000億ドルだった時点で225億ドルの追加出資を約束したこともメリットになるだろう。
とはいえオープンAIの「代理変数」としてSBG株は上下どちらにも動き得る。公開市場の投資家がオープンAIやAIブームの先行きに冷ややかな見方をするようになれば、押し上げられたSBGの株価はあっという間に下落しかねない。ただ今のところ、投資家は孫氏のやり方に肯定的なサインを送っている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)