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COLUMN-親より豊かになれない若者、財政出動や金融緩和は解決策か

ロイターOct 10, 2025 4:55 AM

Jamie McGeever

- 先進国の財政・金融政策の引き締め意欲がなぜこれほど低いのかを疑問に思うならば、国際通貨基金(IMF)が今週発表した図表を見てほしい。百聞は一見にしかずである。

IMFが14日発表する新たな世界経済見通しのプレビューで、ゲオルギエワ専務理事は米ハーバード大の研究者らによる論文から引用した図表を示した。それによると、米国の若者が親の収入を上回る可能性はかつてないほど低くなっている。

調査によると、30歳の米国人のうち親の収入を上回っているのはわずか半数に満たない。半世紀前には9割超が上回っていた。この衝撃的な統計は「アメリカン・ドリーム」だけでなく、自由主義的資本主義の根本的な支柱である各世代が前世代より高い生活水準を享受するという理念そのものに疑問を投げかけている。

この論文は2017年に発表され、「ミレニアル世代」に焦点を当てていた。だが、その後の「Z世代」や「アルファ世代」の状況もさほど改善していないと推測される。新型コロナウイルス禍後の世界は政治の分極化、不平等、住宅価格高騰、人工知能(AI)による混乱、年金減少、定年延長といった課題に特徴づけられている。

これらの脅威は、ゲオルギエワ氏が「疎外感、不満、苦難という深い底流」と呼ぶものが米国だけではなく、世界中の若者にもまん延しいることを示している。

この深い幻滅への懸念の高まりは、先進国全体の政策立案者らがAI設備投資ブーム、目標を上回るインフレ率、超緩和的な金融環境、悪化する公的債務の動向、そして多くの金融市場での記録的な物価高にもかかわらず、金融・財政の両エンジンを同時に加速させて経済を活性化させようとしている理由を説明するのに役立つかもしれない。

<政府債務の暴走>

多くの先進国での大規模な金融緩和の傾向は、この1年で加速している。

米国ではトランプ大統領が「一つの大きく美しい法律」と自賛した減税措置により、今後10年間に3兆4000億ドルの財政赤字を膨らませると予測されている。トランプ氏は輸入品への関税強化による収入を使い、米国民に最大2000ドルを支給する構想も打ち出しており、もちろん米連邦準備理事会(FRB)は利下げを再開している。

ドイツは財政赤字比率に上限を設ける「債務ブレーキ」を廃止し、最大1兆ユーロの財政支出を準備している。一方、厳しい予算決定をちゅうちょしたフランスは政治的混乱に陥っている。そして投資家らは、日本の次期首相となる公算が大きい自民党の高市早苗新総裁が、日本の財政・金融政策を明確に緩和させる方向に転換することに大きく賭けている。

ソシエテ・ジェネラルのストラテジストで、長期的な市場弱気派のアルバート・エドワーズ氏は「世界中の政治家は自ら招いた財政のわなに陥っている。政府債務の暴走を回避するために必要な痛みを、ますます敵意を強める有権者は決して許さないだろう」と指摘する。

エドワーズ氏は今年の金価格急騰について、政府の税制・支出計画が金融政策当局の手足を縛る「財政優位」が世界で広がっていることへの投資家の懸念を最も明確に示す兆候だとの見解を示す。これが通貨の価値低下とインフレ率の拡大を招くとのエドワーズ氏の見解に、多くのアナリストも同意している。

<流れを断ち切るものはあるのか>

エドワーズ氏は「『問題の先送り』政策を断ち切る唯一の方法は、債券市場の暴動だ」と指摘し、元FRB議長のポール・ボルカー氏や元英国首相のマーガレット・サッチャー氏のような人物が「混乱を収拾する」ことはインフレ率が15%以上に達するまでないとの見解を示した。

もちろん、そのような規模のインフレと、それに対する厳しい対策が近い将来どころか、中期的にも視野に入っているというわけではない。

その間、金融市場は活況を呈しており、ペーパーウェルス(実態のある資産に裏付けされていない一時的で不安定な富)の増加が経済成長や所得増加を上回っている。これは若年層に相対的な不利益を被らせる。AIが格差を縮める生産性のブームを引き起こすかもしれないが、それは未知数だ。仮にそうなったとしても、若年労働者が富の創出へ向けた第一歩となる初級の職務こそが、AIによる破壊的影響を最も受けやすいだろう。

米首都ワシントンで来週開催されるIMF・世界銀行年次総会に集う政策立案者の多くが、財政のアクセルを踏み続けるのは確実だ。それが幻滅した若者にとって最終的に良い知らせになるのか、悪い知らせになるのかは、また別の問題である。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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