
Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 8日 ロイター] - 米ニューヨーク連銀が世界中の中央銀行から預かっている米国債の残高が足元で10年余りぶりの低水準となり、米国債を含めたドル建て資産に対する外国の需要が弱まっているのではないかとの疑念が再び浮上しつつある。
これはやや予想外の動きに見える。直近の米財務省の国際証券投資統計(TICデータ)と国際通貨基金(IMF)の通貨別外貨準備高(COFER)では、米国債とドル資産の外国需要は十分底堅いことが示されているからだ。
TICデータとCOFERは、米国内外の資本移動と世界の外貨準備を把握する上で最も信頼性の高い指標と言える。だが公表はかなりの時差を伴っており、TICデータは7月分、COFERは第2・四半期が一番新しい。
一方で外国中銀がニューヨーク連銀に預け入れている米国債の残高は、各中銀の預け先がほかにもあるため包括的なデータとは言いがたいものの、毎週更新されるので実質的には「リアルタイム」の状況を表す。
その最新データで残高が減少している。しかも急速に。
具体的な預入米国債残高は2兆7800億ドルと、2012年8月以来の低水準で、この2カ月間に1300億ドルも目減りした。
残高が2兆9500億ドルと過去1年半のピークに達したのは今年3─4月。トランプ米大統領が「相互関税」を発表して市場が大きく動揺した時期に一致する。この点からすると、それ以降で外国中銀の米国債購入熱は冷めてきたように見受けられる。
もちろん預入残高は外国の米国債需要の尺度の1つに過ぎないが、果たして今後のTICデータとCOFERの先行指標となり得るのだろうか。
<鉱山のカナリアか>
7月のTICデータを見ると、外国中銀の米国債買越額は171億ドル。JPモルガンのアナリストチームの分析では、今年1─7月でもそれまでの売り越しから380億ドルの買い越しに転じた。買越額は前年同期比では40億ドルほど多い。
一方COFERの数字からは、大幅なドル安進行を調整したベースで第2・四半期に各中銀はドル準備を差し引きで積み増したことが分かる。ドイツ銀行は、各中銀が第2・四半期に購入したドル建て証券(大半は米国の中短期国債)を500億ドル近くと見積もっている。
これらは世界の外貨準備高全体(12兆ドル)や米国債市場規模(29兆ドル)と比較すればそれほどの大きさとは言えないが、外貨準備運用担当者の一貫した米国債需要を示すとともに「脱ドル化」のストーリーに冷や水を浴びせている。
このストーリーは、トランプ氏が掲げる多くの政策を巡る警戒感や米国の財政悪化を背景に、世界中でドル建て資産を圧縮する動きが出ているという内容で、確かにドルは相当弱くなった。しかし特に民間投資家を中心として、米国の株式・債券に対する外国の需要は引き続きしっかりしている。
JPモルガンのアナリストチームは3日、トランプ氏が関税措置を発表した4月以降も、米国債から突発的に資金が逃げ出したというそれなりの証拠はないことが、直近データで確認されたと記した。
ただ先に指摘した通り、TICデータとCOFERの状況から時間が経過している。今は10月で、ニューヨーク連銀への預入米国債残高からは、夏以降に事態が変わった可能性もうかがえる。
スタンダード・バンクのスティーブ・バロー氏は、預入米国債残高の減少が目を引くほどのドル安局面で出現した点を理由として、警戒信号を発していると話す。残高の急減はドル高局面で起きるケースの方が多い。なぜなら各中銀は、自国通貨防衛の為替介入に向けたドル資金調達で保有米国債売却を迫られるからだ。
バロー氏は6日、預入残高がこれほど急激に減ったのは、ここ数カ月で米国債とドルに各中銀が感じる魅力が低下している兆しかもしれないと記した。
毎週公表されるデータは振れが大きく、外国中銀の米国債保有意欲についてはずっと包括的な評価手段が存在する。とはいえ、預入米国債残高は「鉱山のカナリア(危険を知らせる予兆)」と言えないだろうか。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)