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COLUMN-FRB追加利下げ、雇用の下支えより資産バブルの恐れ

ロイターOct 8, 2025 2:20 AM

Jamie McGeever

- 米連邦準備理事会(FRB) は政策金利引き下げの狙いについて、迫りつつある労働市場のほころびがもたらす影響を和らげることだと説明している。ところが、残念ながら金融緩和によってそうした目標は達成できそうにない。逆にほぼ確実なのは「全て」の金融資産が値上がりする展開だ。

パウエルFRB議長と連邦公開市場委員会(FOMC)のハト派メンバーが主張する予防的な金融緩和の理論的根拠は十分あるように聞こえる。雇用の伸びが消えつつあり、それが失業率の急上昇と消費下振れ、成長減速から最悪なら景気後退への連鎖をもたらす恐れがあるという見解だ。

問題は、FRBの主要な政策手段であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導がピンポイントの効果を発揮しない点にある。これはいつもの話とはいえ、今回の行使には特に非対称的なリスクをはらみ、望ましくない結果にさらに引き寄せられてしまう。

それは、米国の企業や経済、金融面に根ざす不均衡が一因だ。消費を主導しているのは、株高の資産効果の大半を享受する富裕層で、株式市場では利益や投資、時価総額の大部分をごく一握りの巨大企業が占めている。

FRBは、米国の金融環境が過去3年で最も緩和的で、社債スプレッドが1998年以来の低水準にあり、物価上昇率は目標より1ポイントも高く、国内総生産(GDP)が年率3%ないし3%超で推移する中で、緩和に動いている。

金融市場では「全て」の資産に資金が全速力で流れ込み、ダウ工業株30種とナスダック総合、S&P総合500種という主要株価3指数だけでなく、小型株で構成するラッセル2000や、ハイテクセクター、半導体セクター、金、ビットコインまでいずれも過去最高値を更新した。

パウエル氏は先月下旬に株価は「かなり高い評価」になっていると指摘。これは1996年当時のグリーンスパンFRB議長が米国株について触れた有名な発言、いわゆる「根拠なき熱狂」を彷彿とさせる。ただこの発言以降も、2000年3月のピークに向かってS&P総合500種は2倍、ナスダック総合は何と4倍に跳ね上がった。

これから同様の株高、そしてバブルの破裂があり得ることをうかがわせる具体的な材料は今のところ存在しない。しかし資産効果がこれほど広範に及んでいる以上、恐らくFRBは政策判断において従来よりも金融市場環境を重視する必要があるのではないか。

<昔と違う労働市場>

ところが実際はそうなっていないように見える。FRBは2つの使命のうち雇用最大化に軸足を置く姿勢に転じたものの、労働市場が本当はどれほど脆弱なのかは明らかではない。

最近の失業保険新規申請件数の急増は、特定の州の一時的な天候要因に帰することができる。またより重要なのは、雇用の伸びが鈍っている主な理由が、トランプ政権の移民規制・送還政策であるからだ。

たとえ政策担当者の懸念が正当化されるとしても、現在の労働市場のメカニズムは昔と異なる。それは「採用も解雇も低水準」という構図で、確かに雇用の伸びは低調だが、労働力供給も細りつつある。

米議会予算局(CBO)は先月、予想される今年の移民の純流入数を1月時点から160万人、来年分も約100万人下方修正した。

これにより、失業率の安定を維持する上で必要な月間の雇用増加幅は1月時点の15万人超から5万人弱まで減少した。

さらに、足元の失業率は4.3%と歴史的低水準にあることも念頭に置くべきだ。金利先物が来年末まで計100ベーシスポイント(bp)と見込んでいる追加利下げが、果たしてこの局面で企業の新規採用意欲を高めるのかどうか定かではない。

ブラックロックのエコノミストチームが言及するように、これほどの利下げは通常、労働市場や物価上昇率、経済成長がもっとはっきりと弱い状況で実施されてきたのに、現段階ではどの要素も弱いと確実視できる、あるいは弱くなる公算が大きいとは言えない。

底堅い家計所得が消費を復活させ、ハイテク機器やソフトウエア、データセンター分野における人工知能(AI)関連投資の波が成長の原動力になっているという、今起きているように見える事態こそ、ブラックロックのエコノミストチームが描く基本シナリオで、市場はそれに応じて動いている。

パウエル氏によると、FRBの政策スタンスは「緩やかに引き締め的」で政策金利水準は中立状態に近い。しかし全体的に考えると、追加利下げは恐らく労働市場に明確なプラス効果をもたらすよりも、株式市場を過熱させるリスクの方が大きいだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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