Saqib Iqbal Ahmed
[ニューヨーク 30日 ロイター] - 第3・四半期の米国株のボラティリティー(変動率)はおよそ6年ぶりの低水準にとどまった。多くの市場参加者はかえって今年前半のような波乱の再燃に対する警戒感を強めている。
S&P総合500種の7-9月の1カ月変動率平均は2019年第4・四半期以来の低さを記録した。
4月にトランプ米政権の関税措置をきっかけにした売りを浴びた後、投資家は買いを膨らませて株価は一本調子で最高値水準に達した。一方で新たなマイナスが出現しなかったことから、ボラティリティーが急落した。
ただ投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX、恐怖指数)が歴史的な低さで推移しているからこそ、投資家はボラティリティー上昇が近づいていると身構えている。
専門投資会社リトル・ハーバー・アドバイザーズの共同ポートフォリオマネジャー、マット・トンプソン氏は「ボラティリティーには自然の底があり、ゼロにはならない。われわれはボラティリティーが拡大するサイクルに入っているのは承知しているので、次にはボラティリティーがどこかの時点で上向くのはほぼ間違いない」と述べた。
<長続きしない穏やかな値動き>
過去を振り返ると、現在のようにボラティリティーが低水準の局面が持続する期間は数カ月というより数週間にとどまる傾向があり、ボラティリティーはしばらく落ち着いた後でしばしば跳ね上がる。例えばコロナ禍に伴う相場急落が起きる直前の19年末、あるいは貿易と経済成長の先行き懸念が広がって株が売られた18年第3・四半期にそうした現象が見られた。
今の場合は、人工知能(AI)関連の大型株を巡る楽観ムードや、米経済の底堅さへの自信が投資家のリスクオン姿勢を支え続けている。
しかし米連邦政府閉鎖問題を含めて、ボラティリティーを拡大させるきっかけになりそうな材料は少なくない。投資家としては、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策と政策金利動向を探るため、経済指標を見極める必要にも迫られている。
アサイム500の創業者ロッキー・フィッシュマン氏は、マクロ面のリスクが増大するとともに、昨年8月の円キャリートレード巻き戻しや、今年4月の関税への懸念などに端を発したのと同じ規模のショックによって低ボラティリティー継続に賭けていた投資家が被る損失は、読み通りの展開で得られる利益を上回ってしまう公算が大きいと話す。
シカゴ・オプション取引所(CBOE)のデータからは、特に向こう3カ月で相場が下落する事態に対するヘッジ需要が最も大きいことが分かる。
<システム取引反転も>
ボラティリティー上昇は、ボラティリティーとモメンタムに関する指標が発するシグナルに基づくルールに従って投資判断するファンドの「システム取引」による売りを誘発しかねない。
これまではボラティリティー急落を背景にシステム取引を手がけるファンドは株高を後押しする役割を演じてきた。ただドイツ銀行の見積もりでは、ボラティリティーが跳ね上がるとそうしたファンド勢が売り手に転じる恐れが出てくる。
ドイツ銀行のストラテジスト、パラグ・タット氏は、システム取引で運用されている資産は約1兆-1兆5000億ドルに上り、場合によって値動きを増幅させるだけの規模に達していると試算する。
タット氏は「彼らはまだ売りを開始していないが、資産規模を踏まえるとその影響力は一般に想定されるよりずっと大きくなり得る」と警告した。
リトル・ハーバー・アドバイザーズのトンプソン氏は、値下がりに対するヘッジ手段を購入するよりも、株式保有規模の縮小を選択し、ボラティリティーが本当に上がるかどうか見定めたい、と述べた。
一方で、株式市場のボラティリティー戦略に特化した資産運用会社トゥルー・パートナー・キャピタルのトビアス・ヘクスター共同最高投資責任者は、乗り遅れたくない一心でAI主導の株高に「全集中」している向きにとって、低ボラティリティー局面は守りを固める機会になると主張。「集団飛行を続けながらも、いざという時に飛び降りるパラシュートを備えておくことは可能だ」と提言した。