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COLUMN-米のAI投資ブーム、金利上昇が足かせ FRBがYCCで支援か

ロイターSep 29, 2025 3:50 AM

Joachim Klement

- 米国の巨大テック企業は人工知能(AI)に巨額の資金を投入しており、米株式市場の上昇相場を後押ししている。

しかし、米国の長期国債利回りの上昇が、データセンターやその他インフラに対する投資ブームを危うくしている。2026年に新たな議長が就任する米連邦準備理事会(FRB)が、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)を導入してこうした企業や政府をサポートする可能性はあるだろうか。

米経済は依然としてインフレ圧力の持続と労働市場の軟化の兆しに直面しているが、米国株は史上最高値を更新し続けている。投資家のAIに対する熱狂ぶりとこうしたモデルの運用やデータを保存するために必要な巨額投資が、この「経済と株価の乖離(かいり)」の主因となっている。

マイクロソフトMSFT.O、アマゾンAMZN.O、メタMETA.Oといった「ハイパースケーラー」は既にデータセンターやAIソフトに数十億ドル規模で投資している。コンセンサス予測によると、こうした企業は設備投資を25年から29年にかけて年率11%のペースで増加させると見込まれる。25年は前年比62%増という急拡大に達する見通しだ。

こうした企業は投資ブームの中心にいるかもしれないが、米経済全体がテック投資熱に覆われているようだ。米国の第2・四半期国内総生産(GDP)は、IT機器とソフトウェアに対する投資が前年比でそれぞれ20.4%、12.2%増加した。

投資が過去1年間で伸びた理由はほぼすべてテック投資で説明がつく。さらに、AIブームはここ3年間で年平均成長率にしてIT機器投資を6.4%、ソフトウェア投資を9.0%へとそれぞれ押し上げており、わずか1.6%にとどまった設備投資全体の伸び率を大きく上回っている。

<AIブームに対する脅威>

米株式市場の命運はこうしたAIハイパースケーラーを巡る高成長期待が今後数年で実現するかどうかにますます依存している。しかし、米長期国債の利回りの上昇がこの構図を揺るがしかねない。

AIブームの課題は必要とする巨額投資の多くについて新たに資金を調達しなければならないことだ。そして多くの場合、投資の大部分は債務を負って資金を調達することになるだろう。

しかし、米長期国債の利回りは23年以降大きく上昇しており、最近一時的に低下したにもかかわらず、26年に向けてさらに上昇し続ける可能性があるだろう。

このために借入コストが増大し、一部の投資事業計画は採算が取れなくなるだろう。つまり米長期国債の利回りが高くなればなるほど、IT機器やソフトに対する投資の伸びがますます鈍化することを意味する。

米国債の利回りが上昇しても無論、成長を完全に台無しにするわけではないが、減速させる可能性があるだろう。その場合、過大な成長期待が株価に織り込まれている事情を考慮すれば、ハイパースケーラーやその他のグロース株の企業は業績予想を下方修正するだろう。

<トランプカード>

ただし、この議論全体に大きな注意事項が存在する。FRBはホワイトハウスから政策金利を引き下げて政府の借入コストを下げるようにますます圧力を受けている。これは推測ではない。トランプ米大統領自身が7月18日に自身の交流サイト(SNS)に投稿し「我々は1%であるべきだ。金利コストを1兆ドル節約できる」と述べた。

しかし、仮にFRBが政策金利を引き下げ続けても、それだけでは十分でないかもしれない。FRBは既に利下げに着手しているのに、米長期国債の実質利回りが持続的に低下しようとしていないからだ。

これは、経済と政治を巡る不確実性や将来的にインフレが上昇する可能性について米国債のリスクプレミアムの上昇を反映している可能性がある。投資家がFRBの独立性を疑えば疑うほど、このリスクプレミアムは上昇しかねない。

<イールドカーブ・コントロール>

もし米長期債利回りがかたくなに高止まりすれば、日本銀行が16年から24年まで実施したように、FRBは量的緩和や米長期債利回りを操作する本格的なYCCを通じて、長期的な借入コストを抑えるよう圧力にさらされるかもしれない。

FRBはとりわけ26年5月に次期議長が就任することもあって、ますます政治色が強まるだろうと予想する理由が多くある。つまり、FRBがある程度のYCCを導入するリスクが大きくなる可能性があるだろう。

こうした事情は投資家をむしろ厄介な立場に追い込んでいる。米国債利回りの上昇は今後12カ月間、ハイパースケーラーやその他のグロース株の運用実績を脅かす可能性があるだろう。しかし、もしFRBが人為的に米長期国債の利回りを抑え込めば、こうした企業の株価は壮大な規模の「急反発」を経験するかもしれない。

それにしても、投資することが簡単だなんてだれも言っていないのだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

免責事項:本サイトで提供する情報は教育・情報提供を目的としたものであり、金融・投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。

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