
Joanna Plucinska
[ロンドン 23日 ロイター] - 衛星通信「スターリンク」のWiFiサービス設置費用をめぐる実業家イーロン・マスク氏と欧州格安航空ライアンエアRYA.Iのマイケル・オライリー最高経営責任者(CEO)とのソーシャルメディアでの論争が、航空業界で長年続いてきた議論を再燃させている。高度3万フィート(約9100メートル)で誰がインターネットを本当に必要としているのか、そして費用を払う人がいるのか、という議論だ。
様々な特典でプレミアム旅行者を囲い込もうとする長距離航空会社にとって、ビデオ通話やシームレスなストリーミングは必須のサービスとなりつつある。しかし、ライアンエアのような短距離航空会社や格安航空会社にとっては経済的にはそれほど魅力はないようだ。
マスク氏は、ライアンエアが運航する600機以上のジェット機にスターリンクサービスを追加することを拒否したオリアリー氏を「大バカ者」と嘲ったが、あらゆるコストを削減して同社を欧州最大の航空会社に育て上げたこの率直な物言いのアイルランド人氏が愚か者ではないことは間違いない。
バロア・コンサルタンシーのアナリスト、デビッド・ウェラン氏は「ライアンエアに乗って、長距離便の様なサービスを期待する人はいない。本当に安定した最低限のサービスを最低限のコストで実行することに重点を置いているなら、WiFiは必要ない」と述べた。
<事業運営のコスト>
IAG ICAG.L傘下の英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズなど一部のフルサービス航空会社は長年WiFiを提供してきた。
しかし新型コロナ禍以降、プレミアム旅行の需要が急増し、さらに高速で信頼性の高い衛星リンクが導入されたことで、普及が進んだ。
この1年で、ドイツのルフトハンザ航空LHAG.DE、スカンジナビア航空(SAS)、ヴァージン・アトランティック航空がスターリンクまたは競合の米通信会社ビアサットVSAT.Oやインテルサットのサービスを導入した。
欧州の航空グループ、エールフランスKLM AIRF.PAのベン・スミス最高経営責任者(CEO)は、「特に大西洋横断路線と米国では、(WiFiは)ビジネスを行う上でのコストとなった。米国人の顧客を獲得したいなら、高速WiFiを導入する以外に選択肢はない。ホテルと同じだ」と、ロイターに述べた。
アナリストらによると、スターリンクの低軌道衛星は遅延を減らし、継続的なビデオ通話やストリーミングを可能にする点で同社に優位性を与えている。
「今のところ、スターリンクは最高水準だと考えている」と、最近同サービスを導入したスカンジナビア航空のアンコ・ファン・デル・ベルフ最高経営責任者(CEO)はロイターに語った。
しかし、導入費用は安くない。
前出のウェラン氏は、航空会社によって異なるものの、1機あたりの導入費用はハードウェアや設置費用を除いて約17万ドル(約2600万円)になると見積もっている。
長距離航空会社にとって、この投資は「フリーミアム」戦略にぴったり当てはまる可能性がある。プレミアムの乗客は無料でアクセスでき、他の乗客はロイヤルティプログラムに誘導される仕組みだ。
ウェラン氏は、「市場全体がフリーミアムモデルへと移行しつつある」と述べ、スターリンクがこの傾向を後押ししていると付け加えた。
スターリンクを運営するスペースXは、価格についてのコメント要請に応じなかった。
<ライアンエア「乗客は支払わない」>
しかし、短距離路線の航空会社の場合、費用対効果のバランスは異なってくる。
オリアリー氏は、WiFiアンテナは飛行機の重量を増やし、空気抵抗を増加させ、その結果、燃料費がかさむことになると述べている。
マスク氏はXへの投稿で、空気抵抗はごくわずかだと反論し、ライアンエアを買収してCEOを交代させると冗談交じりに脅した。
しかしオリアリー氏は、価格に敏感な乗客が、特に短距離のフライトで機内WiFiに1─2ユーロ(184-370円)という控えめな料金さえ出すかどうか懐疑的だ。
「残念ながら経験上、料金を払う乗客は10%にも満たないと考えられるので、年間1億5000万─2億5000万ドルの費用を負担する余裕はない」とオリアリー氏は今週、記者団に述べ、こう付け加えた。
「スターリンクがタダで提供してくれれば、われわれの短距離便に載せることは可能かもしれない」