
Mike Dolan
[ロンドン 11日 ロイター] - 米政府機関閉鎖によって発表が遅れていた経済指標が、閉鎖解除を受けて今後1カ月間に相次いで発表される。米連邦準備理事会(FRB)幹部らの間では、年内の再利下げを正当化するほど弱い数字にはならない、との見方が増えている。
公式統計が発表されなかった40日余りの間に、FRB幹部らは「労働市場がまずまず持ちこたえており、金融環境は依然として緩和的で、インフレ率は目標値を超えて上昇方向に向かっている」との見方に傾いているようだ。
従って、発表されるデータに大きなサプライズがない限り、年内に3回目の利下げが実施される可能性は急速に低下している。金利先物市場は今なお12月利下げの確率が3分の2ほどあることを織り込んでいるが、これは楽観的過ぎる見方だったと証明される可能性が十分にある。
連邦公開市場委員会(FOMC)内で、トランプ政権の意向を代弁する委員――代表例はミランFRB理事――は追加利下げを主張し続けるだろうが、「中道」派は金利据え置きの方向に傾いている。
セントルイス地区連銀のムサレム総裁は10日、「慎重に対応することが非常に重要だ」と述べ、「政策が過度に緩和的になることを避けながら、これ以上利下げできる余地は限られている」との見方を示した。
またジェファーソンFRB副議長は7日、「中立金利に近づいているため、ゆっくりと事を進めるのが妥当だ」と語った。
2人はFOMC内で中間的な立ち位置にあると考えられており、明確に年内の追加利下げに反対している様子だ。
年が明けるとFOMCのメンバーが入れ替わり、5月にはパウエルFRB議長の任期が終わる。また、1月にはトランプ大統領がクックFRB理事を解任する権限を有するか否かについての審理が予定され、1月末までの暫定理事であるミラン氏の進退も検討される。
しかし、来年のFOMCメンバー入れ替えが全て、ハト派方向への変化になるとは予想されていない。来年はタカ派で知られるダラス地区連銀のローガン総裁とクリーブランド地区連銀のハマック総裁が、FOMCの投票メンバーに加わる予定だからだ。
SGH・マクロ・アドバイザーズのFRBウォッチャー、ティム・ドューイ氏は最近のリポートで「最初の2回の利下げでハト派を支持した中道派は、労働市場の急速な悪化を明確に示すデータが出てこなければタカ派支持に回り、利下げを1度見送ることに賛成するだろう」と予想した。
<焦点は労働市場>
ドューイ氏は、12月に利下げが見送られそうな理由を4つ挙げている。(1)インフレ率が高すぎ、これを抑制するには、わずかに引き締め的な金融政策を維持することが必要だ(2)労働市場は持ちこたえている(3)金融環境は緩和的だ(4)過去2回の利下げにより、FOMCは様子見をする時間的余裕を与えられた――。
こうした物価、金融環境認識に異論を唱えるアナリストはほとんどいない。最大の「ワイルドカード」は労働市場だ。
しかし、公式統計の発表が再開された際に、現在の労働市場観が大きく覆りそうな兆候はない。再就職あっせん会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの月次サーベイでは、確かに10月のレイオフが急増していたが、民間セクターの就業者数の伸びは底堅く、他の指標を見ても労働市場は底堅さを維持しているようだ。
失業が抑制されていることを示す最も説得力のある兆候は、個々の州が発表し続けている週間失業保険申請件数から得られるかもしれない。ヘイバー・アナリティクスがまとめた各州のデータは、JPモルガンとシティグループが分析した数字と一致している。
セントルイス地区連銀のリサーチ担当者らがリアルタイムの民間データを分析した結果によると、10月末ごろにかけて採用も解雇も減少傾向をたどっており、雇用創出は差し引きゼロ近辺で推移している
リサーチ担当者らは、データが暫定的であるため「これが健全な沈静化か、あるいは、より懸念すべき労働市場環境の悪化なのか」を判断するのは時期尚早だと結論付けている。
FOMCメンバーが直面する最も重要な判断は、労働市場を巡るこうしたあいまいな状況が利下げを続ける根拠として十分なのか、それとも年内は利下げを見送るべきなのかという点になるだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)