Ross Kerber
[1日 ロイター] - 米企業に批判的な人々は、多くの企業がトランプ米大統領に屈服し、和解金を払ったほか、政府による経営への介入を許し、監督強化を受け入れてきたと指摘する。一方で企業の経営幹部は、トランプ氏の権限が劇的に拡大した以上、このような対応は現実的かつ不可欠だと主張している。
そうした中で、米証券取引委員会(SEC)のアトキンス委員長は9月29日、企業の決算報告を四半期ごとから半期ごとに変えるというトランプ氏の方針を迅速に進める考えを示した。トランプ氏は第1次政権時にも四半期業績の開示義務を見直そうとしたが、その際に米金融業界は強く反発した。今回見直し案が再浮上したことで、米金融業界はトランプ氏に対して、四半期業績開示を最優先事項に掲げた前回と同じ姿勢をとり続けることができるのか、覚悟が問われている。
第1次トランプ政権下でSECが企業の決算報告の頻度変更を検討し、意見公募を行った際、最も強く反発したのは投資信託業界の業界団体、米投資信託協会(ICI)だった。ICIは当時、開示頻度を減らすことでファンドマネジャーが「企業の業績を分析し、投資判断を下す能力が妨げられる」と主張した。
ICIは、今回はまだは見解を示しておらず、本記事へのコメントも避けた。世界最大手の資産運用会社ブラックロックBLK.Nも同様だ。同社は19年には四半期業績開示を「投資家にとって透明性を確保する重要な要素」と評していた。
T・ロウ・プライスTROW.Oの経営陣は19年の書簡で、業績開示の頻度削減は「投資家にとって不利益かつ混乱を招くもので、企業にはそれに見合う十分な利益をもたらさない」と指摘していた。同社は9月30日に現時点での見解についてコメントを控えた。
金融業界の幹部はSECの正式な提案が出てから態度を決めたいのかもしれない。しかしソーシャルメディア時代においては物事の初期の時点での発信が重要だ。
インディアナ大学のアルビン・アントニオ・ベラスケス教授(会社法)は、企業が今回発言を控えているのは、提案に反対してトランプ氏や、トランプ氏から任命された当局者を苛立たせ、報復を招くのを避けたいからだと分析。電話での取材に「火薬を温存しているというよりは、むしろ頭を低くしている結果だと思う」と述べた。
ファンド運営会社は、トランプ政権を後ろ盾とするテキサス州で気候変動への取り組みを理由に反トラスト法違反訴訟を起こされるなど、他にも多くの圧力に直面している。
さらにトランプ政権は多様性推進の取り組みにも否定的。ファンドの多くは多様性推進を支持していたが、与党共和党の中には「リベラル志向の」資産運用会社を州の年金基金から排除しようとする動きがある。
ファンドは自らの活動とロビー活動の資源を優先順位付けしているのかもしれない、とベラスケス氏は指摘した。つまり、より大きな優先事項を守るために業績開示頻度の件では譲歩している可能性があるというのだ。
「懸念すべきことがあまりに多すぎる中で、トランプ氏と真正面からぶつかる案件をさらに増やす気持ちになるだろうか。彼らの行動を見る限り、答えは『必ずしもそうではない』であるように思える」という。
<開示頻度減少は欧州が先行>
ナスダックの最高経営責任者(CEO)など四半期業績開示義務の見直しを支持する人々は、こうした変更によって株式上場コストが削減できると見ている。ファンドが開示義務見直しの反対で腰が引けていることから、米国でも27年までに開示義務が半年ごと変更されるとの見方が強まっている。そうなれば米国の業績開示は欧州に似た形となる。
アナリストの業界団体、CFA協会のアドボカシー担当シニアヘッド、サンドラ・ピータース氏は、14年に英国が四半期開示義務を廃止した際の調査に言及した。この調査では、見直し支持派が期待したような企業投資の増加は見られず、実際に四半期開示を中止した企業は10%未満だった。
ピータース氏は開示義務見直しについて、「政治的に秀逸なストーリーだが、実際には効果はない」と断言した。大企業はアナリストに注視されているため、結局は四半期開示を続けると予想。「開示しなければ結局“痛手”を被る」と述べた。
かつてSECの地方局長を務め、現在は法律事務所ヘインズ・ブーンに所属するカート・ゴッチャル氏は、投資家権利擁護団体の一部は四半期開示義務の見直しに引き続き反対するだろうと予測している。既に公的年金などが所属する米機関投資家協議会(CII)は反対の立場を示している。
しかし資産運用会社にとって判断はもっと難しいだろうとゴッチャル氏は予想。「業界はいまだに、トランプ氏の2期目にどれだけの影響力を手にできるのかを探っているところだ」と話した。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)