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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕世界から撤退する米国、EUや日本は主体性示す好機

ロイターSep 30, 2025 2:38 AM

Hugo Dixon

- オルブライト元米国務長官はかつて、米国を「欠くべからざる国」と呼んでいた。米国はそのビジョンと力ゆえに、特別な指導的役割を担っているという意味だ。

トランプ米大統領が「米国第一主義」政策を推し進める中、諸外国は米国の指導力なしでやっていけるかどうかを見極めようとしている。トランプ氏は先週の国連総会演説で改めて同盟関係や多国間ルールへの軽蔑を示しており、このことは世界情勢に空白が生まれたことを意味する。

この空白を埋める必要性は極めて大きい。何と言っても、安全保障、気候変動対策、世界貿易システムは人類の大半に恩恵をもたらす共通財産だ。各国が自己の利益のみを追求し、人類全体の繁栄に必要な条件を守らなければ、世界は醜悪で野蛮な未来へと向かう可能性がある。

事態の修復は容易ではない。トランプ氏は単に、国際社会における米国の指導的役割を放棄しているだけではなく、自由貿易、気候変動、難民の扱いといった問題で、国際規範を積極的に破壊しようとしているからだ。その上、米国抜きで「志を同じくする国々の連合」を形成しようとする諸国は、自身を侮辱した者を罰することができるトランプ氏の怒りを買うリスクを負う。

こうした難局に追い打ちをかけるように、世界第2位の強国である中国は協力しづらい相手だ。欧州連合(EU)など多くの貿易相手国は、中国がダンピング(不当廉売)によって世界貿易システムを損なっていると懸念している。中国はまた、ロシアによるウクライナへの不法な侵略を可能にしている主役であると同時に、フィリピンなどの近隣国を威圧している。

さらなる問題は、米国に代わるリーダー筆頭候補のEUが弱く、分裂していることだ。一方、ブラジル、カナダ、インド、日本、サウジアラビア、英国など他の中堅国は単独で主導権を発揮するには小さすぎる。とはいえ、空白を埋める必要性があまりに大きいため、これらの国々は協力を深めており、一定の成功を収めてもいる。

<貿易と気候変動>

米国の世界輸入に占める割合は、2024年時点で14%に過ぎない。したがって、他の国々がトランプ氏の関税政策を真似しなければ、自由貿易の恩恵のほとんどを維持することができる。米国以外の世界各国が相互の貿易自由化に大きく取り組めば、時間の経過とともに、米国が打ち出した貿易障壁を補うことさえ可能になるかもしれない。

カナダはこの方向で大きな推進力となっている。カーニー首相は今月、インドネシアと新たな貿易協定を、メキシコと戦略的パートナーシップを締結した。また、カナダ国内の貿易障壁も撤廃している。

EUも同様の動きを示している。英国との関係を深化させ、インドやメキシコと貿易協定を結んだ。また、南米の関税同盟メルコスル(南部共同市場)との自由貿易協定(FTA)批准を巡っては、反対するフランスをなだめる交渉が進展している。

しかし、EU自体の内部障壁の撤廃は迅速には進んでいない。イタリアのドラギ前首相が作成した青写真は、依然としてほとんど実現に至っていない。

気候変動対策への志を同じくする国々による連合形成に向けた歩みも、同様にまだら模様だ。トランプ氏は国連演説で気候変動対策を「史上最大の詐欺」と呼んだ。ただ朗報は、2023年の温室効果ガス排出量に米国が占める割合が11%にとどまることだ。悪い知らせは、排出量の26%を占める中国が先週、指導力を発揮する機会を逃したことだ。中国は35年までに排出量をピーク時からわずか7―10%削減すると約束した。しかもそのピークはこれから訪れる可能性がある。

とはいえ、意欲を持つ国や機関が結束すれば進展は可能だ。好例が米州開発銀行の計画であり、これは気候目標に沿ったプロジェクトに再投資することを条件に、世界中の商業銀行から融資債権を買い取り証券化するものだ。

<平和に向けて>

米国が軍事的優位性を有しているため、安全保障分野で「志を同じくする国々」が連合を形成するのは困難だ。それでもウクライナとパレスチナ自治区ガザという二大紛争においては一定の進展が見られた。

確かに欧州は、将来の停戦合意において、米国の支援なしにウクライナに安全の保障を提供することに二の足を踏んでいる。米国の協力がなければ、ロシア産石油の販売価格を大幅に引き下げる力もない。

それでもEUは、2022年に凍結したロシアの国家資産を活用するウクライナへの「賠償ローン」提供へとついに動き出した。1400億ユーロ(1636億6000万ドル)以上に上る可能性があるこの融資の重要な付帯条件は、ロシアが戦争賠償金を支払った場合にのみウクライナが返済義務を負うということだ。EU欧州委員会とドイツはこの計画を支持しており、EU域外の英国も賛成だ。トランプ氏の支持が得られるに越したことはないが、凍結されたロシア資産の大半が欧州域内に存在するため、欧州単独でも賠償ローンを実行できる。

ガザは米国の介入が欠かせない地域のひとつだ。トランプ氏は、イスラエルのネタニヤフ首相に停戦を承諾させられる可能性のある唯一の国際社会の指導者だ。しかし、他の国々も依然として和平を追求している。今月の国連総会はフランスとサウジアラビアが提案した計画を圧倒的多数で支持した。イスラム組織ハマスとイスラエル軍がともにガザから撤退し、パレスチナ自治政府に権力を移譲するという計画だ。

米国の支持がなければ、この計画は進展しない。しかし、多くがトランプ氏と良好な関係を持つアラブ諸国指導者らは、少なくともイスラエルによるヨルダン川西岸地区併合に反対するよう、トランプ氏を説得するのに一役買ったようだ。

米政権の「米国第一主義」が国際秩序に問題を引き起こしているのは間違いない。だが光明もある。第二次世界大戦以降の支配的な地政学的システム「パックス・アメリカーナ」が、常に平和的あるいは公正だったわけではない。諸外国は現在、米国の穴だらけの傘の下に受動的に隠れるのではなく、もっと主体性を示す機会を得た。

こうした国々が主体性の発揮に成功すればするほど、より均衡の取れた世界を構築できるようになるだろう。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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