Gwladys Fouche
[オスロ 25日 ロイター] - トランプ米大統領が望み通りにノーベル平和賞を受賞することはないだろう。複数の専門家によれば、ノルウェー・ノーベル賞委員会が重視する国際秩序を、トランプ氏はむしろ破壊している立場にあるからだ。
トランプ氏のロビー活動も受賞の妨げになる可能性が高い。委員会は外部の圧力に影響されず、独立して活動することを重視していると、ある委員はロイターに語った。
それどころか、トランプ氏の意向で支援を削減され、活動が困難となっている人道団体に賞が贈られるかもしれない。これには国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(ユニセフ)、赤十字、国境なき医師団(MSF)、あるいはスーダンの「緊急対応室(ERR)」など地域の草の根団体が含まれる可能性がある。発表は10月10日の予定だ。
「トランプ氏が平和賞を受賞する可能性は全くない」――ノーベル平和賞の歴史を研究するアスレ・スベーン氏はこう断言した。パレスチナ自治区ガザでの紛争においてイスラエルを支援したり、ロシアのプーチン大統領に接近しようとしている点などが理由だという。
実業家アルフレッド・ノーベル氏の遺言および同氏の財団は、「諸国間の友好を最も促進した人物」に賞を贈ると定めている。だがオスロ国際平和研究所の責任者ニナ・グレーガー氏によれば、トランプ氏はそれを実行していない。
「トランプ氏は米国を世界保健機関(WHO)や、気候変動対策の国際的枠組み『パリ協定』から脱退させ、古くからの友好国や同盟国との貿易戦争を開始した」とグレーガー氏は述べた。「平和を本当に推進しようとする大統領や人物について、私たちが抱くイメージとは正反対だ」
<過去の意外な受賞者>
確かに、過去には多くの意外な候補者がノーベル平和賞を受賞している。バラク・オバマ氏は2009年、米国大統領就任から8カ月もたたないうちに平和賞に選ばれ、米国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏の受賞はベトナム戦争の最中の1973年だった。
ノーベル賞委員会の元委員ヘンリック・シーセ氏は「残虐な経歴や権威主義的な経歴、あるいは悪行や不正に関わった過去を持つ人でも、平和賞を受賞することがある」と指摘する。「だが彼らは、自らの関与した行為が誤りだったとはっきり自覚し、その誤りを正すために行動した」と付け加えた。同氏は例として、南アフリカのフレデリク・デクラーク元大統領の名前を挙げた。同氏はアパルトヘイト撤廃で果たした役割を評価され、1993年にネルソン・マンデラ氏と共に平和賞を受賞した。
トランプ氏がプーチン氏にウクライナ戦争の終結を促すか、イスラエルのネタニヤフ首相にガザでの停戦を促すことができれば、受賞候補となる可能性があるとグレーガー氏はみている。
<激しいロビー活動>
これまで多くの人物がノーベル平和賞を目指してロビー活動を行ってきたが、トランプ氏ほど熱心だった人物はいない。彼は米国大統領としての立場を利用し、自分こそ平和賞を受賞すべきだと繰り返し主張している。23日には国連総会で、ガザでの停戦を直ちに実現させなければならないと演説した。これもその一例だ。
だがノーベル賞委員会のアスレ・トーヤ副委員長によれば、ロビー活動は一般的に逆効果だという。
副委員長は一般論として「こうした活動は、プラスよりもマイナスの効果の方が大きい。キャンペーンについても委員会内で議論するからだ。受賞を目指して強引なアピールを繰り広げる候補者もいるが、我々は快く思わない」と語った。
さらに「私たちは誰の干渉も受けずに閉ざされた部屋で議論することに慣れている。内部で合意に達するだけでも十分大変なのに、外部から影響を受ければもっと難しくなる」と微笑んだ。
ヨルゲン・フリードネス委員長にとって、外部から注目されることによる影響はないという。
「どの政治家もノーベル平和賞を受賞したがる」と委員長は言う。「この賞の理念は、全ての政治指導者が目指すべきものだと考えている。米国でも世界中でも注目は感じるが、その影響を受けることなく、私たちはこれまで通りの手順で仕事を進める」
<有力候補は>
ノーベル賞委員会は人道団体のほか、国際司法裁判所などの国連機関や、今年創設80周年を迎える国連そのものを受賞者に選ぶ可能性もある。
昨年はかつてない多数の報道関係者が取材中に死亡しており、多くはガザで起きたことから、ジャーナリストに光を当てることも考えられる。その場合、ジャーナリスト保護委員会や国境なき記者団に平和賞が贈られるかもしれない。
中央アフリカ共和国や、「平和構築のための西アフリカネットワーク」(WANEP)、ダルフールの「エルファシルにある長老および仲介委員会」のような、紛争地で停戦交渉や支援仲介を行う地域の調停者も候補として考えられる。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のカリム・ハッガグ所長は「これらの団体はいずれも平和賞受賞に値する」との見解を示した。