Niket Nishant Manya Saini
[4日 ロイター] - 米国債のイールドカーブはスティープ化(長短金利差拡大)が進んでいる。背景にあるのは政府債務増大や、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に対するトランプ大統領の介入、トランプ氏の高関税措置を巡る懸念だ。
イールドカーブの形状は、銀行の純金利収入や融資判断に直接影響を及ぼす。最近の情勢が銀行にとってどのような意味を持つのかをまとめた。
◎スティープ化する局面
早期利下げが予想される場合、投資家は金融政策の変化をより反映する短期債の買いに動く一方、大幅な利下げ観測が浮上すれば、物価上振れへの不安から長期債にリスクプレミアムとしてより高い利回りを要求するため、スティープ化が起きる。
反対にFRBが利上げを通じてインフレを抑えようとする局面ではイールドカーブはフラット化(長短金利差縮小)し、利上げが景気失速を招く可能性が出てくれば「逆イールド(長短金利逆転)」が発生する。
今週は長短金利差の指標として最も注目度が高い2年国債と10年国債の利回り差が4月以来の大きさ、つまり最大のスティープ化を記録した。
◎銀行への影響
銀行は短期で資金を調達し、長期で融資を行っているので、イールドカーブのスティープ化で恩恵を受けやすい。
貸出金利の収入と預金金利負担の差を示す純金利マージンが拡大し、預金コストが低下するからだ。
これによって銀行は融資を積極化し、経済成長を後押しする。
イーマーケターの銀行アナリスト、ミラ・トーマス氏は「単純に言えば、スティープ化は経済の信任投票で、企業や消費者の楽観姿勢と解釈され、借り入れの可能性が高まる」と説明した。
ただ長期金利上昇は銀行が保有する債券の価値を損なう以上、資産の含み損拡大をもたらす面がある。
米国の商業銀行が8月20日時点で保有する国債と住宅ローン担保債の総額は7兆3000億ドルに上ることが、FRBのデータで分かる。
◎地銀に最大の追い風
地方銀行は、融資事業の依存度が大きいため、スティープ化による追い風が相対的に大きくなるだろう。
ジェフリーズのアナリストチームはノートに「長期的には、緩やかな金利低下が地銀と中堅銀行のバリュエーションを支える一助になるはずだ」と記した。
しかし借り手の財務状態が悪化し、労働市場が減速すると、融資に軸足を置く地銀は一転してより大きなリスクにさらされる。
アネックス・ウエルス・マネジメントのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェーコブソン氏は「厄介なのはデフォルト率が増大した場合だ。多くの銀行は純金利収入よりも手数料収入を重視する方向に動いている」と述べた。
特に大手行は何年もかけて投資銀行業務を拡充しており、借り入れ需要鈍化の悪影響を和らげる態勢にある。
◎スティープ化は成長を保証するか
スティープ化は通常、銀行にとって好材料だが、消費者信頼感や労働市場など借り入れに影響する他の要素が悪化すれば、成長は保証されない。
バブソン大学のグレン・ミグリオッツィ准教授は「金利が低下すれば借り入れ需要を刺激するのは間違いないが、それは景気後退環境でない場合に限られる」とくぎを刺した。
米労働省が公表した最新の雇用動向調査によると、7月の求人件数は10カ月ぶりの低水準に沈み、コロナ禍以降で初めて失業者数が求人数より多くなった。
◎銀行株への含意
イートロの米国投資アナリスト、ブレット・ケンウェル氏は「投資家が金融セクターに楽観的なのは正しい。今後数週間から数カ月で投資家は金融株の押し目買いに動くと想定され、現在の追い風ムードは続くだろう」と述べた。
S&P総合500種の金融セクターと銀行セクターは、いずれも今年になって総合500種をアウトパフォームしている。
ガベッリ・ファンズのポートフォリオマネジャー、マクレー・サイクス氏は「銀行が最も恩恵を受けるのは与信環境が安定し、失業率が低く、イールドカーブが正常化した環境だ。このシナリオの下で、投資家は銀行株を買うと見込まれる」と解説した。