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COLUMN-転職者が持ち込んだ前職の企業秘密、訴えられたエヌビディアの責任どう判断

ロイターSep 4, 2025 4:52 AM

Jenna Greene

- 発端は「盗み」だった。続いて、パワーポイントによる大失敗が起きた。あるソフトウエアエンジニアが企業秘密のソースコードを盗み、米半導体大手エヌビディアへ転職した後、元同僚とのビデオ会議でその文書を誤って共有してしまったのだ。
この漏えいと致命的なミスを受け、エンジニアの前勤務先である世界的な自動車部品大手ヴァレオVLOF.PAは、企業秘密の侵害を理由にエヌビディアNVDA.Oを提訴した。カリフォルニア州サンノゼの連邦地裁の判事は審理を11月に開始するとし、陪審は、盗まれた情報によってエヌビディアが恩恵を受けたかどうかを判断すべきだと述べた。
企業秘密はシリコンバレーの生命線とも呼ばれる。今回の訴訟は、漏えい情報を望まず、使ってもいないとするエヌビディアが、社員による不正流用についてなお責任を負うのか――そんな厄介な知的財産の論点を突きつける。


ヴァレオは2023年に提出された訴状で、カリフォルニア州サンタクララに本社を置く世界で最も時価総額の高い企業エヌビディアを提訴。エンジニアが退職前に、自動車向けの高度な駐車・運転支援システムに関わるヴァレオの機密ソースコードファイルを数万件ダウンロードし、2021年にエヌビディアへ移ったと主張した。
エヌビディアはその直前、メルセデス・ベンツ向けの新型駐車支援ソフトの供給契約をめぐる競争でヴァレオを退け、受注を獲得していた。駐車支援システムは、駐車スペースの探索や車両の駐車動作を支援する。
ヴァレオ側の代理人であるカークランド&エリスの弁護士は、エヌビディアがヴァレオの専有情報(機密情報)を利用し、「開発費で数百万、あるいは数億ドルを節約し、本来得るべきでない利益を上げた」と主張している。
これに対しエヌビディアは、同社が、エンジニアのモハンマド・モニルザマン氏にヴァレオから情報を持ち出させる意図があったことを示す証拠はなく、不正が発覚した時点で彼を解雇し、同社製品にはヴァレオの企業秘密を一切使用していないと反論した。エヌビディアの代理人の法律事務所クイン・エマニュエル・アーカット&サリバンの弁護士が法廷文書で述べた。
ドイツのエヌビディア子会社に勤務し、本件訴訟の被告とはなっていないモニルザマン氏は、ドイツでは2023年、ヴァレオの企業秘密の不正取得・使用・開示の罪により有罪判決を受けている。本人からのコメントは得られていない。


ヴァレオはまずドイツでエヌビディアを相手取り提訴したが、同国の裁判所はエヌビディアがヴァレオの企業秘密を保有している証拠はないと判断し、ヴァレオにエヌビディアの訴訟費用の負担を命じた。
「カリフォルニアでも同じだろう」とエヌビディアの広報担当者は述べた。ヴァレオは取材要請に応じなかった。
法廷文書によると、パリに本社を置き、世界で10万人を雇用する同社は、自動車技術のパイオニアとしての100年の歩みをアピールしている。1991年には、後退時に障害物に近づくほど警告音が速く大きくなる駐車支援システムを開発し、2011年には、世界初の自動駐車支援システムを投入している。
一方、車の高度なコンピューター化が進むにつれ、ヴァレオはエヌビディアと正面から競合するようになった。エヌビディアは2015年に「Drive」プラットフォームを立ち上げ、当時のニュースリリースで「スーパーコンピューターのビジュアル・コンピューティング能力を各ドライバーに提供する」とうたった。


ヴァレオは法廷文書で、かつては独自動車大手メルセデスに駐車関連技術を供給していたが、2020年にエヌビディアがソフトウエア契約を獲得して以降は、カメラやレーダーなどのセンサー・ハードウエアの供給に格下げされたと述べた。メルセデスの広報はコメント要請に応じなかった。
ヴァレオによれば、6年間にわたり駐車・運転支援プログラムに従事していたモニルザマン氏は、2021年にエヌビディアへ移り、メルセデス案件担当として、より上級の職を得たという。
しかし、ハードウエア面でヴァレオの元同僚との調整が必要だった。ビデオ会議で、彼がパワーポイントの資料を最小化した際、盗まれたソースコードが画面に表示された。ヴァレオの社員がすぐにそれと見抜き、証拠としてスクリーンショットを撮った。


裁判の焦点は、エヌビディアが不正に取得した情報を使用したかどうかにある。
エヌビディアの略式判決申立ての大半を退けたノエル・ワイズ米地裁判事は、8月28日付の15ページの決定のなかで、ヴァレオが、エヌビディア側が不正に入手した成果物を使用した「可能性を示すいくつかの状況証拠」を提示したと述べた。
たとえば、当該エンジニアの作業スペースの壁にヴァレオの機密文書やハードウエアが掲示され、彼のノートPCにヴァレオのソースコードが保存されていたという。
判事は、「これらの事実は、モニルザマン氏がエヌビディア向けに作成したコードに、ヴァレオの企業秘密を組み込んだとの合理的推認を支える」と書いた。「実際にそうしたかどうかは陪審の判断事項だ」。


エヌビディアは、モニルザマン氏によるコードの追加作業をすべて元に戻し、問題となっている貢献については削除済みであると主張する。判事はその主張自体、陪審の審理事項だとした。
また、判事は、同社が不正を容認しておらず、モニルザマン氏の行為は職務の範囲外だったため、この訴訟は却下されるべきだという主張も受け入れなかった。
「そうした主張は論点をはぐらかしている」とワイズ判事は述べた。両社ともに、不正の発覚後にエヌビディアが直ちにモニルザマン氏の処分に動いたこと自体は争っていないが、それだけでは同社の現時点の責任を免れるには足りないとした。
エヌビディアがヴァレオへの損害賠償を支払うべきかどうかは、今秋に陪審が判断する。

免責事項:本サイトで提供する情報は教育・情報提供を目的としたものであり、金融・投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。

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