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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕中国自動車業界、破滅への疾走 危機招く構造問題

ロイターSep 4, 2025 4:08 AM

Katrina Hamlin

- 中国の自動車業界は、外部から見れば破竹の勢いに見えるだろう。比亜迪(BYD)002594.SZや吉利汽車といった中国自動車メーカーの雄が国際的な自動車ブランドに取って代わり、2009年には中国を世界最大の自動車市場に押し上げた。中国は最先端のバッテリー技術を誇り、世界最大の自動車輸出国となり、米国や欧州連合(EU)から追加関税を課される事態を招いている。こうした優位性があるにもかかわらず、多くの自動車メーカーが破滅に向かって疾走している。

表向きの問題は、2年超も続いているし烈な価格競争だ。市場調査会社ビジブル・アルファのデータによると、長城汽車601633.SSやBYDといった自動車メーカー6社の平均新車価格は2025年に2万4000ドル(約355万円)程度まで下落する見込みで、これは21年を21%下回る。自動車メーカーは内蔵式の火鍋調理器や複数の画面、保険の無料適用、低金利ローンなどで他社を凌駕しようと競っている。

これは自動車業界、特にガソリンを大量消費するモデルに力を入れている自動車メーカーにとっては壊滅的だ。三菱自動車7211.Tのように既に中国から撤退した企業もある。

東風汽車集団は25年上半期に新車販売台数が前年同期より14%減り、利益悪化を警告して上場廃止を決めた。一方、傘下の電気自動車(EV)ブランドを分離・独立させる方針だ。

コンサルティング会社アリックスパートナーズによると、24年に撤退したEV専業メーカーは16社となり、初めて新規参入企業数を上回った。

価格競争を仕掛けて市場シェアと利益率を高めてきたEV世界最大手のBYDは先週、四半期決算の純利益が前年同期より30%弱減ったと発表。今月1日には8月の生産台数が2カ月連続で減ったと発表し、これは20年以来、5年超ぶりのことだ。時価総額が約1360億ドルのBYDは大幅な値引きで販売拡大を図るとともに、研究開発費の上積みや外国での新工場建設に資金を投じてきた。長城汽車の25年上半期決算の純利益は前年同期比で10%減った。

<手加減>

中国政府は自動車業界の過当競争の幕引きを狙っており、習近平国家主席は無秩序な値下げを激しく非難した。工業情報化省は7月、自動車メーカーに対して「合理的な競争」を追求するよう指示した。当局は規則やガイドラインの調整にも乗り出した。

こうした措置はほとんど成果を上げていない。さらに悪いことには、どの自動車メーカーも業界が苦境に陥っている根本原因の過剰生産能力には対処していない。コンサルティング会社オートモビリティによると、24年の乗用車販売台数は2760万台に達した一方、アリックスパートナーズによると生産能力は10年前を50%超上回る5560万台に達している。

必要とされる2倍もの生産能力や、他の固定費を抱えることは財政的な流出要因となる可能性がある。皮肉なことに、これは自動車メーカーが市場シェアを持続的に拡大するというほとんど無駄な希望の下で、ますます多くのインセンティブを提供するという悪循環を招き、損失を悪化させている。

過剰生産を抑制する選択肢は明確に思えるかもしれない。それは新工場建設の抑制、遊休工場の売却、業界再編の促進であるが、それを阻害しているのが政治だ。

特に電気自動車(EV)産業は過去15年間で戦略的資産となった。価格競争は、一部の中国メーカーがバッテリーや運転支援技術、さらには自動化生産ラインに至るまで世界をリードする技術の開発へと駆り立てた。

他国の同業他社は羨望の眼差しを向けている。米フォード・モーターF.Nのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は中国の新興企業、小米科技(シャオミ)1810.HKのEVについてドイツの高級スポーツカー、ポルシェ風のデザインを絶賛し、中国のライバル企業が「はるかに優れている」と評した。

ただ、生産能力の抑制は経済的な痛みを伴う可能性がある。資金繰りに苦しむ地方政府は、減税および土地、補助金の提供などの優遇策で自動車メーカーの工場建設や拡張を積極的に後押ししてきた。

地方政府は、廃業した企業を復活させる事例さえある。たとえ赤字企業でも、地方政府は生産品に対する付加価値税(VAT)を徴収できる。新規投資と雇用創出は、たとえ自動車メーカーが決して利益を上げられなくても、国内総生産(GDP)の成長を目指す地方政府にとっては極めて望ましいのだ。

雇用も懸念材料だ。コメルツ銀行のエコノミスト、トミー・ウー氏によると、自動車業界は約500万人を雇用している。ロイターによると、自動車メーカーは他の製造業と同じように既に従業員の勤務時間と賃金を削減しており、正社員からパートタイム労働者への切り替えを進めている。

しかし、これは今後起こりうる事態に比べれば表面的な対策に過ぎない。全ての企業が使っていない生産ラインのために待機要員を大量に抱えているというわけではないが、業界再編や工場閉鎖は大規模な雇用喪失を招きかねない。急激な販売縮小に見合った生産能力削減をしていない東風汽車のような既存メーカーや、販売が伸び悩んだ過剰な野心を抱く新規参入企業でとりわけそのような傾向が強い。

<無謀な行動>

残る一つの問題は、価格競争と過剰生産能力の二重の影響により、自動車メーカーが販売悪化の影響を受けやすいことだ。これは決して小さなリスクではない。国内需要は脆弱だ。

確かに2025年上半期の新車販売台数は前年同期比11.4%増と回復した。しかし、免税措置と政府の買い替え支援策による購入前倒しが起きた可能性が高い。

中国の消費者信頼感指数は新型コロナウイルス禍前の水準を下回っており、格付け会社フィッチは25年下半期に信頼感指数が軟化するとの見通しを示している。

中国からの新車輸出も2024年に600万台弱と20年の6倍弱に膨らんだ後、逆風に直面している。外国の保護主義と、主要輸出企業のBYD、中国上海汽車(SAIC)600104.SS、奇瑞汽車(チェリー)による現地生産計画が中国製自動車の需要を落ち込ませる可能性が高いからだ。

需要がさらに軟化すれば、撤退の動きが加速し、より痛みを伴うものとなる。5年前ならば苦境に陥った自動車メーカーの資産にも買い手がつき、市場参入の割安な機会と見なされていたが、24年には売却案件が次々と頓挫している。

弱小企業が魅力的な知的財産を保有している可能性は低く、供給過剰の状況では生産ラインの価値も低い。業界再編には買収が伴うかもしれないが、経営破綻と人員削減は避けがたいように映る。

需要が急増しない限り、中国自動車業界の広範な領域は財政的な破綻に向けて突き進んでいる。


(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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