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COLUMN-テック株懸念や欧米中銀トップ交代、ユーロは安全資産か

ロイターNov 18, 2025 3:22 AM

Mike Dolan

- 外国為替市場のユーロ相場は世界の金融市場が緊張感に覆われたこの1週間で上昇した。米国のテック部門を巡って懸念が生じ、欧米と日本の中央銀行に対する注目度が変化する局面で、安全資産としての役割を果たしているのかどうかという興味深い疑問を投げかけている。

ユーロは今年ドルに対して12%上昇し、上昇分が今年前半の混乱時期に集中していた。欧州中央銀行(ECB)が過去12カ月で4回利下げしたにもかかわらず、2025年の上昇分の大半を維持している。

ウォール街でテック大手の株価が先週再び動揺し、米連邦準備理事会(FRB)当局者がよりタカ派的な姿勢に転じたにもかかわらず、ドルは安全資産としての買いからも、FRBの緩和期待の後退に伴う買いからも、いずれも恩恵を受けられなかった。

さらに、ユーロはドル以外の通貨に対しても広範囲に上昇している。ユーロは先週、日本円に対して過去最高値を記録し、英ポンドに対しても2年以上ぶりとなる高値を付けた。

こうした動きは日本と英国の国内政治の動向に左右されたものだったが、日本円と英ポンドは合わせるとユーロ圏の対外貿易比重の10%以上を占める。

金融不安時に安全資産とされた円の伝統的な役割は、日本資本が不安定な時期に還流とするという前提に主に根ざしていたが、先週はそうした様子が見えなかった。新たな財政拡張政策や日本銀行に対する金融緩和維持の政治的圧力がその背景にあるのかもしれない。

スイス・フランだけが、米国の関税率引き下げから追加的な支えを受けてユーロに対し上昇した。しかし、そうした状況もいずれはデフレを警戒するスイス国立銀行(中央銀行)が抑えに動くかもしれない。

40以上の貿易相手国に対するユーロの名目実効為替レート指数は総じて記録的な高水準付近で推移し続け、再び上昇基調に戻っている。ECBの指標は9月に記録した過去最高値まで1%未満の範囲内だ。

<3つの要因>

3つの要因がユーロを押し上げている可能性があるだろう。

一つ目は、米国のテック企業の価値評価が割高と見なされ人工知能(AI)バブルに対する懸念が高まる状況で、欧米間の資金の流れが今後ある程度リバランスする可能性だ。二つ目は、今後2年間でECBとFRBのトップに制度的な変化が起こる可能性。三つ目は、26年にかけて期待される待望のドイツの財政出動だ。

一つ目の要因については、米国のAI投資熱狂を巡る企業価値評価に対する懸念から、ウォール街が長年続けてきた株式運用実績の優位性が逆転するのではないかと指摘する声が一部で上がっている。例えばゴールドマン・サックスは米国の投資収益が今後10年間で欧州、アジア、新興国を下回ると見ている。

ユーロ圏は現状で約1兆4300億ユーロ(1兆6700億ドル)、域内総生産(GDP)の9%超に相当する海外資産の純国際投資ポジション(NIIP)を保有している。それは基本的に、海外資産(主に米国)に留保されている欧州の資金量であり、ユーロ圏の資産に対する海外からの保有額を上回っている。

ユーロ圏のNIIPは昨年末のピークから為替レートの影響で減少しているが、米国の26兆ドルという巨大なNIIP赤字と鮮明な対比を示している。米国の巨大な赤字は欧州や世界のポートフォリオが過去15年間に主としてテック関連の米国「例外主義」を追い求めた結果膨れあがったのだ。

こうした資金の流れや不均衡がある程度巻き戻されて、投資家が国内資産を重視する「ホームバイアス」を復活させるという見通しが少なくとも現在、為替レートに影響を与えている可能性がある。

<中央銀行トップ>

26年初頭はFRBにとって試練の時期となる。トランプ米大統領はFRB指導部を再編するとみられ、5月に就任する新しいFRB議長を任命し、1月からは理事会メンバーの過半数を自らの指名者で占める可能性が高い。

よりタカ派的な地区連銀総裁から今月、防衛的な動きがあったにもかかわらず、FRBの独立性に対する懸念から、たとえインフレ率が物価目標を上回っていても一段の大幅緩和が来年後半に実施されるのではないかという憶測が残っている。

欧州でもラガルド総裁の任期が27年に終わるため、ECBの方針転換の兆しが早くも噂されている。さらに、ユーロ創設初期に「ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク、中銀)支配」の印象をもたれないために回避されたドイツ人総裁が初めてECBトップに就く可能性も取り沙汰されている。

もしもそうした事態が実現すれば、よりインフレに警戒的なECBトップが誕生する可能性がある。

そしてそれは、来年にかけて最大1兆ユーロの追加防衛・インフラ支出を伴う財政拡大がインフレを高進させないようにしたいというドイツ政府の懸念ともぴったり一致する。

外為市場の「安全資産」という理屈は時としてあいまいだ。

しかし、少なくとも株式市場の不安、政治的な混乱、「熱い」インフレに対する警戒感が見込まれる来年に向けて、ユーロの役割は注視に値する。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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