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〔アングル〕米国抜きの貿易連携模索するEU、「トランプ関税」逃れも経済効果は未知数

ロイターOct 2, 2025 6:21 AM

Philip Blenkinsop

- トランプ米大統領が打ち出した関税措置は、世界中で眠っていた自由貿易協定(FTA)交渉を再び活性化させた。各国・地域はいま、米国向け輸出の落ち込みを補うためにかつてないペースで連携を模索しつつある。

特に欧州連合(EU)は、昨年11月にトランプ氏が大統領選で勝利して以降、南米の関税同盟メルコスル(南部共同市場)、メキシコ、インドネシアと相次いでFTAを締結したほか、年内に4件目となるインドとの協定調印を視野に入れている。

メルコスルも、ノルウェーやスイスなどが加盟する欧州自由貿易連合(EFTA)とFTAを結び、2021年にブレーキがかかっていたカナダとの交渉を再開。アラブ首長国連邦(UAE)は今年1月、たった1日で3件の貿易協定に調印した。

EUは新たな連携について、大半のEU製品に対する15%という米国の「不当な」関税と、中国による過剰供給やEUの脱炭素化に必要な重要鉱物の輸出制限への対応策の一環だとする姿勢を明確にしている。

<視線は米国以外に>

より保護主義的になった米国との貿易で生じる損失を、こうした協定で完全に補える可能性は低いだろう。結果は時が経てばわかる。各国・地域はそれでもなお、行動を起こす必要に駆られている。

EU欧州委員会のシェフチョビッチ欧州委員(通商担当)は欧州議会で9月、昨年のEU貿易額の17%を占めた米国だけが取引相手ではないと強調して「残りの83%との関係を大切にする必要がある。つまり(貿易)関係を多様化する努力を続けるという意味だ」と語った。

このメッセージは、以前は自国市場の開放に消極的だったインドやフランスなどにも響いている。実際フランスは、EU・メルコスル間のFTAに対する反対姿勢を弱めたようにみえる。

世界貿易機関(WTO)のオコンジョイウェアラ事務局長は9月、各国・地域の連携拡大について「加盟国が互いにより多くの協定(締結)に向けた交渉を続けることは、貿易多角化に貢献し、WTOの支えになる。こうした協定はほとんどはWTOの基本原則に基づいており、競合関係ではない」と述べ、WTOルールに基づく体制である限り歓迎する意向を示した。

<短期・長期的な視点>

新たな協定は、米関税によるマイナスを相殺できるだろうか。

短期的には不可能だろう。米関税措置の影響はすぐに顕現化するが、新しい貿易協定の恩恵が行き渡るまでには長期間を要するためだ。関税の引き下げは5ー10年かけて段階的に実施することも多く、関係国の承認手続きにも時間がかかる可能性が高い。

もっとも、貿易協定のメリットを先取りする形の投資はより早く実施されるかもしれない。

長期的な効果も不透明だ。新しい貿易協定はEUの成長率を数十ベーシスポイント(bp)押し上げるだろう。一方、EUの域内総生産(GDP)のうち約4%を占める米国・中国の輸出市場は、需要が落ち込んだものの、その全てが失われるわけではない。

欧州シンクタンク「ブリューゲル」のニクラス・ポワティエ研究員は、トランプ関税はEUのGDPを輸出経由で0.2ー0.3ポイント押し下げるというのが平均的な試算だが、不確実性が企業投資に及ぼす影響はより小さい可能性があると話す。

ポワティエ氏は、米国が世界の経済秩序を損ない、WTOルールを無視した取引を進める中で、新たな貿易協定には高い政治的価値も備えているとの見方を示した。

こうした動きを通じて見えてくるのは、複数の貿易協定のネットワークが米国を除き、中国もある程度除外した上で多国間システムを支える構図かもしれない。

欧州委員会のサビーネ・ウェイヤンド貿易総局長は先週の欧州議会で、EUが体現しようとしているのは「世界にとって信頼できる貿易相手」だと説明した。

欧州改革センターのチーフエコノミスト、サンデル・トルドワール氏は、欧州は米国以外の地域の貿易を主導する立場になり得るが、貿易黒字を抱えている以上、売り手ではなく買い手を必要とすると指摘。これまでは米国が世界の貿易赤字の約50%を占める形で、重要な輸出市場の役割を果たしてきたので、中国の過剰供給を押しのけながら互いの輸出需要を創出するという「課題は非常に大きい」と付け加えた。

ただ、EUにとって他の地域の市場はあまりにも小さく、米国と中国向けの輸出減少を十分に穴埋めできるのは域内しかない。

トルドワール氏は「欧州は域内需要を喚起しなければ、停滞するしかない」と警告した。

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