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[26日 ロイター] - 炎上する列車、燃え上がる線路、そして黒煙――。
ウクライナ兵がオンラインに投稿した映像には、ロシアが占領地域で建設を進める広大な鉄道網に対する破壊工作が記録されている。しかし、そうした「努力」は、ロシアによる占領地での急速なインフラ建設の勢いを食い止めるには全く不十分だ。
「鉄道の長さは数百キロにも及ぶ。残念ながら、われわれには無敵の力はない」。ドネツク地方のロシア陣地内で活動するウクライナ人戦闘員のオレスト(安全上の理由から部隊での呼び名を使用)はロイターにそう語った。ロシアの補給線への攻撃はほとんど効果を上げておらず、ロシアによる統制強化が反対勢力の活動を封じ込めているという。
ロシア政府は、これらの占領地域を「ノボロシア」、つまり新ロシアと呼ぶ。そしてそこで、活発なインフラ整備を進めている。
ロイターの調査によると、ロシアは西部でウクライナ軍に対して強力な攻撃を続ける一方、東部・南部の占領地域において数年がかりの輸送・貿易インフラ整備事業に数億ドルを投じている。この巨額支出は他のロシア地域への開発資金を大きく上回り、兵士や軍事装備、穀物、鉱物資源の輸送を支えている。さらに、占領地域をロシアに組み込むというロシア政府の長期的な目標にも寄与している。これには米国主導の和平協議の核心にあるドンバス地域も含まれる。
本調査は、数千枚の衛星画像、ロシア政府の入札書類、公式声明、輸出・貨物データに加え、30人以上のウクライナ当局者や占領地域の元住民へのインタビューに基づいている。占領下で進行するロシア支配下のウクライナ地域の変貌について、初めて詳細な実態を明らかにしたものだ。
ロシアは現在、ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンの4地域の大部分を含むウクライナの約5分の1の地域を支配している。ロシアはこれら4地域すべてを自国領と主張しているが、ウクライナおよび西側同盟国は違法な領土奪取だと非難している。
ロシア大統領府のペスコフ報道官はロイターに対し、4地域はロシア連邦の不可分の一部であり、「ロシアの構成主体だ。それは憲法に明記されている」と述べた。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、2014年にロシアが併合したクリミアを例に挙げ、占領地域へのロシアの投資は住民に利益をもたらさない「見せかけ」に過ぎないと述べた。「すべてが軍事化されている」と彼はインタビューで語った。大統領府は、ロイターの調査結果全体に関するコメント要請には回答しなかった。
米ホワイトハウス当局者は、トランプ大統領が戦争終結に向けて取り組んでおり、無意味な殺りくを終わらせたいと望んでいると述べた。
ノボロシア鉄道システムの建設は順調に進んでいる。2023年に着工した全長525キロメートルの路線計画は、ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンの各州を横断する。
一方、ノボロシア高速道路は、ロシア本土やクリミアと結ぶ全長1400キロの環状高速道路「アゾフ・リング」の一部で、占領地域を横断している。
戦争の初期にはほとんど機能していなかったアゾフ海沿岸の占領地の港湾は、ロシアの旗の下に改修され、再開された。昨年8月にドネツク州マリウポリで撮影された衛星画像には、サッカー場ほどの大きさの銀色のドームを持つ新しい施設が埠頭に建設された様子が映っている。 また、その近くには、輸出用に準備されていると思われる石炭の山も確認できた。
ロイターは機械学習モデルを用いて数千枚の衛星画像を解析して大規模工事を特定した。その結果、2022年から25年の間に4州の占領地域および隣接するロシア領で、2500キロメートル以上の鉄道、高速道路、一般道路が新設または修復・改良されたことが判明した。
ワシントンに拠点を置く戦争研究所の国家安全保障フェロー、カロリナ・ヒルド氏によると、こうしたインフラプロジェクトの投資規模と長期的な性質を見れば、将来どのような和平合意があっても、これらの地域をウクライナに返還する意図を全く持っていないことが分かる。
「ロシアが占領下のウクライナにおける産業や経済に巨額の投資を行い、占領から利益を得ようとしていることは、財政的にもウクライナをロシアに縛り付けることになる」とヒルド氏は指摘した。
これはウクライナとその欧州の同盟国にとって厳しいニュースだ。ウクライナ側はロシアに対し占領地の返還を強く求めており、ドンバス全域の支配権を放棄するよう求める米国の呼びかけを断固として拒否している。
ロシアの競売文書によると、占領地域にある数十の貴重な資源資産も売りに出されている。これには鉱山や農地が含まれており、例えばウクライナ最大級の金鉱床の一つを開発する権利は、25年4月にロシアの鉱山会社が落札した。
ロシアは、ウクライナ東部および南東部に対する自国の歴史的主張や、これらの地域を再統合したいという野心を隠していない。またプーチン大統領は、ノボロシアに壮大な計画を抱いている。ノボロシアとは、ロシア帝政時代の言葉で、現代のナショナリストたちがこれらの地域を指す際に用いている。
ロイターが公開されているロシア政府のデータを分析したところ、ロシアは24年から26年にかけてこれら4つの占領地域の開発に約118億ドル(約1兆8800億円)の連邦予算を割り当てていることが判明した。これは優先国家開発事業の一環だが、他に同事業の対象となっている約20の連邦管区向け予算の合計額のほぼ3倍に相当する。
プーチン氏は昨年9月、これらの地域の「再統合」3周年を祝う演説で、戦火に悩まされ、数十年間無視されてきた同地域に3年間で6350キロの道路を敷設したと述べた。「社会経済開発の大規模なプログラムが開始された。これは本質的に、われわれの祖先が住んだ、歴史あるロシアの土地を再生させるプログラムだ」と宣言した。
地元当局およびモスクワ当局によると、現在建設中の新たな道路や鉄道網により、ウクライナとの間で人や物資を輸送する車両や列車は、すでにクリミア橋を経由せずに移動できるようになっている。この橋はこれまで、ロシアとクリミアを結ぶ唯一の陸送ルートであり、半島を経由してウクライナへ軍隊、燃料、装備を輸送することを可能にしていた。その一方で、ロシア軍の軍事・補給にとってボトルネックとなっており、ウクライナによる度重なる攻撃により遅延や混乱が生じていた。
ウクライナ軍の情報機関(HUR)のスキビツキー副局長は、「ロシアにとって最も重要な検討事項はインフラ、すなわち輸送インフラだ」と述べた。
<衛星画像に写る新線路>
ノボロシア鉄道とロシア連邦運輸監督局が昨年8月に公開した声明によると、23年以降、ロシアは占領地域の鉄道網の建設・維持に約4億2500万ドルを費やしている。
ロシア政府の公式メディアによると、中核となるプロジェクトは、占領地域を経由してロシア南部とクリミアを結ぶ幹線鉄道だ。計画総費用については明記されていない。
23年7月から25年11月にかけて撮影された衛星画像では、マリウポリ北部のノボセリフカとコロスキーを結ぶ全長60キロの区間で線路が徐々に敷設される過程が確認できる。ウクライナの諜報当局者は、この路線はロシアが前線から離れた、より安全な場所に弾薬や軍用車両を輸送するための新たな鉄道網を構築しようとしている一例だと述べた。ロイターは、この路線が稼働しているかどうかを確認できなかった。
ロシアの国家調達関連のウェブサイトによると、ノボロシア高速道路の建設にも多額の予算がつぎ込まれ、関連する20件の入札(総額2億1400万ドル以上)が請負業者に発注されている。ロシア運輸省は昨年末、26年に同道路へ追加で1億2300万ドルが支出されると発表した。
<クリミアより速いペース>
このルートは、既存の高速道路区間を結ぶために、新規道路と改良道路を組み合わせたものだ。ロシア連邦道路局および運輸省によると、完成時には全長630キロとなる予定だが、完成予定日は不明だ。
衛星画像からは、橋やインターチェンジの建設・改修、道路の拡幅作業の様子が確認できる。ロイターの分析によると、ロシア南西部タガンログと占領下のドネツク州マングシュ近郊を結ぶ100キロメートルの区間の大部分が既に完成している。また、マリウポリを迂回するバイパス路も建設中だ。
ノボロシア高速道路は、巨大なアゾフ・リングの占領地域区間を構成している。ロシア当局は、30年までに同高速道路を完成させ、ロシアのロストフナドヌーとマリウポリ、さらにはザポリージャ州やクリミアの各都市を結ぶ計画だとしている。
ウクライナ大統領府のクリミア担当代表、オルガ・クリシュコ氏は、ウクライナ東部・南部におけるロシアの経済インフラ整備の動きは、併合されたクリミアで行われたものと類似しているが、今回はそのペースがはるかに速いと述べた。
ロシアは14年にウクライナからクリミアを奪取した後、全長19キロに及ぶ巨大な道路・鉄道複合橋であるクリミア橋のほか、併合後にウクライナのエネルギー供給から遮断された半島へ安定した電力を供給するための新高速道路や2つの発電所などのインフラ整備を行った。
「われわれの分析によれば、ロシアは新たな占領地域において、わずか3年でクリミアでの10年に匹敵する成果を上げた。クリミアは予行演習だったかのようだ」と同氏は述べた。
<港湾の掌握>
ロシアはアゾフ海沿岸の占領下にあるウクライナの港湾活用にも乗り出した。昨年8月、モスクワはマリウポリとベルジャンスクを国際船舶に開放されているロシアの港湾の公式リストに追加した。この動きはウクライナ政府から非難された。
両港では現在、しゅんせつ工事が行われており、より大型の船舶が航行できるよう水路の拡張が進められている。ロシアの国家調達ウェブサイトには、23年以降総額1300万ドルを超える両港湾の建設入札案件が掲載されている。
マリウポリのベテラン港湾労働者2人は匿名を条件に、ここ数カ月で港の活気が著しく増したと語った。穀物や石炭を積んだ船舶が出入りしているが、活動は依然として戦前の水準には達していないという。
LSEG(ロンドン証券取引所グループ)の船舶追跡データによると、昨年7月から11月の間に貨物船18隻がマリウポリ港とベルジャンスク港を出港し、その大半はトルコの港へ向かっていた。24年にはこれら2港に入出港した船舶はなかった。
ある商業貿易データプロバイダーが提供したロシアの税関データによると、22年3月から25年3月の間に少なくとも50万8500トンの石炭・コークス・無煙炭(総額1320万ドル相当)が占領地域から輸出された。主な買い手はトルコおよびアラブ首長国連邦の商社で、インド、インドネシア、エジプト、アルジェリアの企業にも出荷された。
<ウクライナ東部の金鉱山>
ロシアは競売を通じて、占領したウクライナ領土の天然資源への支配を拡大している。鉱山から採石場、農地に至るまで数十の資産がオンラインの競売にかけられている。
最大の案件の一つは、ルガンスクにあるボブリキフスケ金鉱山の開発権だ。ロシアの鉱業会社ポリアンカが支配するアルチェフスクプロムグループが970万ドルで落札した。競売書類によると、同鉱山の埋蔵量は約1.64トンの金を含み、現在のスポット価格に基づけばその価値は2億6000万ドル近くに上る。
以前はオーストラリアの鉱山会社コラブ・リソーシズが同鉱区の開発を進めていたが、14年にロシアが支援する分離主義者によって同地域が占拠された際に作業を停止。西側諸国の制裁によりアクセスが不可能となり、プロジェクトの価値を償却した。
同社のアンドレイ・カルピンスキー会長は、24年6月と25年9月の衛星画像を比較したうえで、採掘作業がすでに始まっていることが見て取れると指摘した。メインの採掘坑に採掘機らしき重機が写っており、採掘された岩石の堆積場の足元には輸送用コンテナも確認できるという。アルチェフスクプロムグループ、ポリアンカ、ロシア鉱物資源省はコメントの要請に回答しなかった。
戦争研究所のヒルド氏は、これほど広大な領土を占領するには多大なコストがかかると述べた。同氏はさらに、戦争遂行と国際的な制裁によって深刻な打撃を受けているロシアの財政にとって、同地域の天然資源や工業資源を活用する能力が重要になる可能性があると付け加えた。
「それが、占領がロシアにとって実際に利益をもたらすようになるほどの転換点となり得る」とヒルド氏は述べた。