Gabriel Rubin
[ワシントン 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領が得たのは、犠牲が大き過ぎて割に合わない勝利の極致だった。議会上院は1日、包括的な税制・歳出法案をわずか1票差で可決したが、トランプ氏がこの法案を「大きく美しい」と呼ぶのはまさに「看板に偽りあり」と言える。財政的な破滅をお膳立てし、脱化石燃料の取り組みを後退させ、多数の国民から医療保険を奪うことで、米国の未来を見るも無惨な形にしてしまうからだ。
法案の根底にあるのは、与党共和党の減税に対する熱意にほかならない。法人税率は35%から21%に引き下げられ、第1次トランプ政権時代の時限措置は恒久措置に切り替わる。個人に対する各種減税を含めると財政不安は約5兆ドル、歳出削減による相殺後でも3兆3000億ドルに上る。
その財源の一部、1兆ドルは高齢者向け公的医療保険メディケアや低所得者向け公的医療保険メディケイドなど医療関連歳出削減で賄われる。これにより議会予算局(CBO)の見積もりでは1200万人近くが保険から閉め出される。またバイデン前政権が導入したクリーンエネルギー補助金廃止を通じて5000億ドルを捻出。さらに幅広い政策のベースラインを再設定することで、一見すると歳出総額が低くなった体裁となる。
これは信じられないほど近視眼的な計画だ。上院では連邦政府所有地や海での石油・ガス採掘を容易にする条項は削除されたものの、国内で育ち始めたばかりの太陽光・風力発電産業への支援を急速なペースで撤廃することで、気候変動の影響が加速し、雇用創出は鈍化するばかりか、大量の電力を消費する人工知能(AI)技術の発展を阻害しかねない。国内総生産(GDP)も打撃を受けるかもしれない。例えばメディケイド向け歳出1ドル当たりの経済効果は1ドルより大きいためだ。
財政赤字抑制はもはや議会の優先事項ではなくなり、いかなる歳出削減もほとんどは人道支援圧縮か金融規制緩和の隠れ蓑に過ぎない。しかも貿易摩擦や政府債務増加が対米投資への不安を助長し、ドルは今年に入って10%余り下落している。
少なくとも幾つかの有害なアイデアはなくなった。消費者金融保護局(CFPB)は生き残り、各州は向こう10年にわたってAIを規制する権限を手に入れる。外国企業が最大20%の「報復税」を課される事態は免れた。しかし全体的に、法案は経済面だけでなく政治面でも非常に厄介な存在になりそうだ。
世論調査からも風当たりの強さが分かる。FOXニュースが6月半ばに行った調査では、法案反対が5分の3近くに達した。ペンシルベニア大学ウォートン校の予算モデルでは、法案に伴う連邦債務の増加ペースは経済成長のスピードをはるかに上回る。そうした状況を受け、実業家イーロン・マスク氏もトランプ氏批判を再燃させている。現在下院に審議が移った法案を巡り、マスク氏は新党を立ち上げ、法案支持の共和党議員の対抗馬を資金面で応援すると約束した。トランプ氏が手に入れそうな「大きく美しい」法律は、あっという間に美しさを失うだろう。
●背景となるニュース
*米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で2日再採決もnL6N3SY0SM
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
UPDATE 2-米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で2日再採決も nL6N3SY0SM