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COLUMN-日本の円買い介入、差し迫っていないが投資家は警戒維持が得策

ロイターNov 12, 2025 2:05 AM

Jamie McGeever

- 円が対ドルで下落し続け、日本政府が為替介入に踏み切るのではないかという懸念が高まっている。介入がすぐに行われる可能性は低いが、投資家は警戒を怠るべきではない。

円は既に最近介入があった水準を割り込み、足元では1ドル=155円近辺で推移している。これは多くの日本企業が「痛みの限界」とみなす水準で、昨年付けた約37年半ぶり円安の162円も視野に入っている。

日本は2022年9月と10月に約10年ぶりに円買い介入を実施し、約600億ドルを投じて円を買い支えた。介入水準は初回が145円突破、次が152円への接近だった。昨年7月にも約360億ドルの円買い介入を行ったが、その時もドル円は162円台に迫っていた。

では、今回も介入が間近に迫っているのかというと、必ずしもそうではない。

その主な理由は、円を押し下げているファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)にある。

現在の円安は、今年半ば以降、米ドルが安定し、最近では米連邦準備理事会(FRB)が利下げに慎重だとの見方からドルが上昇していることが一因だ。

また、国内の政策も円安の要因となっている。高市新政権が1000億ドル規模の財政刺激策を準備しているとの観測が浮上。さらに日銀の利上げサイクルが停止している様子であることも、この1カ月に円安が進む材料となった。

こうした動きは高市早苗首相が10日に示した新たな政策で一層明確になった。首相は今後、より柔軟に財政を支出する方針を打ち出し、事実上、財政健全化へのコミットメントを弱めた。さらに日銀に対しては金融引き締めを慎重に進めるよう求める姿勢を改めて強調した。

円安が進むのも無理はない。

こうしたファンダメンタルズを踏まえると、日本の財務省が円買い介入を容認する可能性は低い。介入を行っても効果が乏しいとみられるからだ。さらに、たとえトランプ米政権がドル安を望んでいたとしても、米政府が日本の介入を支持するかどうかは不透明だ。

<企業の痛みに限界>

とはいえ、ドル/円相場と日米国債利回り差の間にあったこれまでの密接な相関関係は完全に崩れており、円安が行き過ぎている可能性がある。みずほのアナリストによると、現在の利回り格差に基づくとドル/円は145円を下回る水準が妥当だという。

片山さつき財務相も先週、政府は引き続き「一方的かつ急速な円の動き」を「強い緊張感を持って注視している」と述べた。

ただ高市首相が10日に示した、より緩和的な財政・金融政策を受けて、ドルは再び155円台に接近した。

この155円という水準は重要な節目になりそうだ。

昨年、ロイターの依頼で日経リサーチが実施した調査によると、回答した229社の約半数がこの水準を「痛みを感じる水準」だと回答した。さらに、160円を超える円安を好ましいと考える企業は1社もなかった。

つまり、円は既に介入水準に近づいているということだ。

<インフレへの影響も重要>

インフレの動向も考慮すべき重要な要素だ。日銀関係者は、企業や消費者の期待インフレ率が2%程度で安定していると見ているが、実質インフレ率は依然として3%前後だ。円は既に歴史的に見て弱い水準で、当局が今後どこまでの円安を容認できるのかが問われている。

みずほのエコノミストの試算によると、円が1%下落するとコアインフレ率が約0.05%上昇する。つまり、円が先月初めの147円から160円へ下落すれば、インフレ率が約0.4ポイント上昇することになる。これは無視できない影響だ。

もっとも現時点では介入は差し迫っていないと多くのアナリストは見ている。円安の進行は「急激」と言えるほどではなく、日本の政策当局による「口先介入」も、まだ最も深刻な警戒レベルには達していない。

では、どのような状況になれば当局の対応が変わるのか。
ドイツ銀行のアナリストは、「ドルが急速に157円を超えるような局面」になれば、介入の可能性が高まると見ている。また、「1カ月で10円の円安」が介入の目安になるとも指摘し、現在の6―7円程度の変動幅はまだ通常の範囲内だとしている。

一方、ゴールドマン・サックスのアナリストはやや楽観的で、現時点で円は特に弱いとは言えないとみている。ただ、「ドルが急速に161―162円に達すれば状況は変わる」とくぎも刺した。

過去の歴史に照らすと、日本が為替介入に踏み切るのは市場の状況――投機筋のポジション、資金フロー、円安のペース――によって介入が成功する見込みが高い局面だ。

今はまだこうした条件が完全にそろっているわけではないが、そうなるのは時間の問題かもしれない。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

免責事項:本サイトで提供する情報は教育・情報提供を目的としたものであり、金融・投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。

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