
Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 4日 ロイター] - 米経済を巡る不確実性の霧が分厚さを増すとともに、米連邦準備理事会(FRB) の政策担当者の意見対立も先鋭化しつつある。パウエル議長の下で、19人が参加する連邦公開市場委員会(FOMC)の合意形成能力が、究極の試練にさらされている。
10月29日に終わった直近FOMCで利下げが決まったのはごく普通の事象だが、その決定過程は歴史的だった。投票権を持つ12人のうち、25ベーシスポイント(bp)の政策金利引き下げに2人が反対。トランプ大統領に任命されたミラン理事は50bpの利下げを主張し、カンザスシティー地区連銀のシュミッド総裁は金利据え置きを提案した。引き締め、緩和双方向の反対意見が出たのは1990年以降で今回を含めて3回しかない。
こうした亀裂は、パウエル氏のFOMC後の会見でより鮮明になった。パウエル氏は、今後の政策運営の進め方でFOMCメンバーの意見が大きく異なっており、12月の追加利下げは市場が織り込んでいたような「既定路線」とは程遠いとくぎを刺した。実際、12月のFOMCで25bp利下げと金利据え置きのどちらに決まるかは最後まで分からないかもしれない。
折悪しく金融政策を取り巻く環境も厳しい。過去最長記録になろうとしている連邦政府機関閉鎖によって公的な経済データの発表が止まっているだけでなく、入手可能なデータからは労働市場の軟化と根強いインフレという政策運営にとって正反対の材料が併存していることがうかがえる。一方でトランプ政権はパウエル氏の後任議長指名を準備しつつ、FRBの独立性に対する攻撃を続けおり、FRB自体が政治の舞台に引きずり出されてしまった。
これは特に完全なシナリオを織り込んできた市場にとって、望ましくない要素がそろった状況と言える。
<理事VS地区連銀総裁>
19人が参加し、7人の理事と5人の地区連銀総裁が投票権を有するFOMCは常に意見が多様化する傾向にはある。
ただ現在の情勢をおおまかに分析すると、理事が「ハト派」、地区連銀総裁が「タカ派」という形で意見が対立しているように見える。いずれの陣営にも「中間派」が存在するものの、理事側は緩和に賛成し、地区連銀総裁は追加利下げにより慎重な姿勢だ。
直近のFOMC以降、利下げへの懸念はダラス地区連銀のローガン総裁、カンザスシティー地区連銀のシュミッド総裁、クリーブランド地区連銀のハマック総裁、シカゴ地区連銀のグールズビー総裁らによって表明されてきた。
これに対してミラン理事、ウォラー理事、ボウマン理事は直近のFOMCで利下げに賛成したことを公表し、追加利下げを支持している。
ウォラー氏とボウマン氏は、来年5月に任期を終えるパウエル氏の後任議長の最終候補リストに残っている人物でもある。
<政策の不確実性>
現状維持を決めた7月のFOMCではウォラー氏とボウマン氏が利下げを主張し、直近はより大幅な利下げと金利据え置きの双方向から反対意見が出された。こうした環境においてパウエル氏の指導力や合意形成力は今後大きな正念場を迎えるだろう。
確かに投票権を持たない地区連銀総裁が影響力を強めているものの、それが最終的にどのような効果を及ぼすかはまだ分からない。SGHマクロ・アドバイザーズのチーフ米国エコノミスト、ティム・デューイ氏が指摘するように「権力の源泉は理事会(Board)にある」のだ。
デューイ氏は、この事態でパウエル氏が合意を形成するのはより難しくなると予想する一方、今まで同氏は議長として「偉大な仕事」を成し遂げてきたと付け加えた。
FRBの政策担当者の「両極化」が進めば、十分な事前の情報発信や合意主導の金融政策に慣れきった多くの投資家は、なじみのない環境に身をさらすことになる。
BNPパリバのチーフ米国エコノミスト、ジェームズ・エゲルホフ氏は、この先は投資家が慣れ親しんだような「非常に高いレベルのコンセンサス」は非常に手に入れにくくなるかもしれないと主張する。
エゲルホフ氏は、FRBが12月を含めた今後のFOMCで追加利下げに踏み切ると見込んでいるが、政策決定に至る過程が「荒っぽく無秩序」となり、投資家が通常向き合うよりも「曲折があってより予測不能な」経路をたどるとの見解を示した。
同氏は「両極化は不確実性につながる」と言い切る。
当然ながら政策の不確実性が高まれば、市場のボラティリティーが増大し、リスク回避姿勢が広がる。そうなると理論的にはリスクプレミアム上昇、あるいはスプレッド拡大という現象になって表面化するはずだが、まだそうした事態は起きていない。
ただしFOMC内で生じてきた意見対立が強まり続ければ、市場ですぐこの現象を目にするだろう。だから「警告はなかった」と言うべきではない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)