
Jennifer Johnson
[ロンドン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米南部バージニア州にあるアマゾン・ドット・コムAMZN.Oのデータセンターで20日に起きた大規模障害は、写真 ・動画共有のスナップチャットや掲示板型ソーシャルメディアのレディットだけでなく、ロイズ銀行グループ、通信大手ボーダフォンといった欧州の有力企業にも影響を及ぼしたことが、リアルタイムで障害を追跡しているダウンディテクターの分析で明らかになった。
今回の件は、欧州の企業経営者にとって既に承知している事実、つまり米巨大テック企業への依存は重大な脆弱性につながるということを改めて突きつけた形だが、現状では彼らが十分な対応能力を持てる状態には程遠い。
アマゾンのクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の障害発生は何も珍しい事案ではない。2011年以降、今回以前にも17件の障害が起きていたことが同社のウェブサイトで確認できる。
英国時間の午前半ばまでに「根本的なDNSの問題」は完全に解消され、それに付随する比較的軽微な障害の処理を進めているところだ、とアマゾンは説明した。
それでもこの件は引き続き2つの理由で注目されている。まずはアマゾンが市場シェア30%と、20%のマイクロソフトMSFT.Oや13%のグーグルをしのぐクラウドサービスの世界的なリーダーであること。そしてその優位性ゆえに規模のメリットを活用してコストを抑えることができる半面、OVHクラウドのような欧州の中小事業者が、合計シェア65%というこれら米国の「ビッグ3」の圧倒的な存在感を脅かすのは一段と難しくなっているのだ。
トランプ米大統領が2期目に就任して以来、欧州の人々の目は主権とデータセキュリティーの問題にますます釘付けになっている。米国のビッグ3は最近、欧州の個人・企業データを保護できるとする特別な対応策を打ち出したものの、複数の専門家は、米政府が引き続き特定の環境下で巨大テック企業が集めた情報を閲覧できると警告している。
理論的には、欧州連合(EU)が米国の関与なしに、域内需要に対応するための大規模なデジタル関連インフラの整備を進めることは可能だ。欧州のデジタル主権確立のために立ち上げた「ユーロスタック・イニシアチブ」の背景には、まさにこうした構想がある。しかし楽観的に見積もってもその費用は10年間で3000億ユーロ(3498億6000万ドル)に上り、英国やEU加盟国は持ち合わせていない。いずれにせよ、このような取り組みはセキュリティー上の問題には役立つとしても、欧州のクラウドプロバイダーだからといって、AWSのような障害から完全に無縁となれるわけでもない。
短期的には、アマゾンの障害で企業経営者はクラウドの利用先をマイクロソフトやグーグルに切り替える動きが広がるかもしれない。それは理解できるが、基本的な問題解決にはつながらない。残念ながら、根本的な解決には欧州がねん出しようとしているよりも多額の資金と、より大きな政治力が必要になる。
●背景となるニュース
*アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」で20日に発生した大規模障害で、写真・動画共有のスナップチャットや人工知能(AI)開発のパープレキシティ、暗号資産(仮想通貨)交換所コインベースなどAWSを利用している企業のアプリやウェブサイトが一時停止し、ロイズ銀行やボーダフォン、BTといった英有力企業にも影響が及んだ。nL6N3W10CY
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)