Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 16日 ロイター] - 米国株に対する投資をヘッジしようと急いだ今年の動きは当初、幅広い意味で「脱ドル化」の過程の一部と見られていた。こうした状況はトランプ米大統領の貿易・経済・外交政策に対する世界の投資家たちの不満を反映していると受け止められた。しかし、月日が経過し米国株がIT主導で新たな高値更新を繰り返すにつれて、こうした考え方は崩れつつあるように思われる。
もしも「脱ドル化」が実際に本格化しているならば、米国の株式や債券はほぼ確実に価格が下がっているだろう。しかし、そうなっていない。
ウォール街の株価指数であるS&P総合500種、ナスダック総合指数、ダウ工業株30種平均、ラッセル2000指数は史上最高値にあり、米国債も今年は全期間で上昇している。30年債ですら価格が上がっているのだ。
ただし、ヘッジしていない海外投資家たちはドル指数が今年これまでに11%下落しているため利益がずっと小さいかまたは損失を抱えている。
だから、ヘッジの急増が見られるのだ。
<ヘッジ依存の生活>
ドイツ銀行のアナリストたちによると、米国証券に対するヘッジ付き資金流入が10年ぶりに海外からのヘッジなし資金流入を上回った。アナリストたちが500以上のファンドを分析した結果、米国株に対する資金流入の80%以上と米国債に対する資金流入の約50%が現在通貨ヘッジされていることが分かった。つまり、米国資産に対する資金流入の総額の約3分の2が今のところヘッジ付きとなっている。
これはとりわけ株式で、この数年間から劇的に変わっている状況を示している。
ドル下落に対するヘッジは投資家たちが米国の株式や債券の保有量を減らすよりはむしろ保護したいと考えていることを示す。株式の評価額が高く、債券について財政政策の不透明感が存在するにもかかわらず、需要は驚くほど堅調に推移している。
投資家たちは株式に関して、大幅な価格の下落がたいてい危機と同時に起きてドルが安全資産として上昇するために相殺されると考えて、過去にヘッジすることはほとんどなかった。
しかし、今年4月の「解放日」関税の混乱では状況が異なった。
ドイツ銀行のFXリサーチ責任者のジョージ・サラヴェロス氏は15日に「外国人投資家は米国資産の購入に戻ったかもしれないが、米国資産に付随したドル投資を望んでいない。ヘッジ付きドル資産を購入するたびに、同額のドルを売却してFXリスクを除去している」と書いた。
米財務省が公表した2024年6月末時点の公式統計で、外国人の米国株の保有比率は過去最高の18%だった。その比率はそれから増加しているのだろうか。
<ドル弱気派>
欧州やカナダの年金基金がドルヘッジの比率を大幅に引き上げたという報道が今年前半に相次ぎ、「脱ドル化」や「米国例外主義の終焉」の議論をあおった。ナスダックはユーロ建てで3月に12%下落し、下落幅が2002年以来で最も大きくなった。
そしてドルは政策金利や債券利回りの差が逆風となり、米連邦準備理事会(FRB)が多くの他の中央銀行は利上げ終了が間近な中で今週ほぼ確実に利下げサイクルを再開する見通しであるため、引き続き売り圧力にさらされている。
ドルはまた、米財政政策の先行きやFRBの独立性を巡る投資家たちの懸念がいつまでも残っている状況で影響を受ける可能性もあるだろう。
しかし、こうした事情全てにもかかわらず、ウォール街の収益力と活力、米国債の安全性と流動性は世界中から資金を引き寄せ続けている。米国資産は依然として唯一の投資選択肢としてとどまっている。
<4月8日の転換点>
世界の株式市場は25年もまた堅調で、米国以外の多くの株価指数が上昇率で米株価指数を上回っている。
しかし、「解放日」の混乱が4月8日にピークに達して以降、米国株は急回復している。ナスダックはこの日からほぼ40%上昇しており、最も好調な株価指数のひとつとなっている。
当然ながら、外国人投資家は機会を逃したくない。
JPモルガンの株式ストラテジストによると、外国人投資家たちは現在の評価額に関係なく、米国株を売却することに関心を持っていないという。海外の成長機会が限られており、米国以外の市場の流動性が相対的に低く、ベンチマークにある程度近いポジションを維持したいと考えているからだ。
ストラテジストたちは先週「ほとんどの外国人投資家たちが長期的な潜在成長力、株主に優しい企業、成長促進政策、人工知能(AI)関連の成長ストーリーを理由として米国に資金を投入し続けている」と書いた。
投資家たちは総じてドル投資に対して弱気な見方のようだが、とりわけウォール街と巨大ITについては強気な姿勢を示す。こうした傾向は「脱ドル化」が通貨を超えた分野で広がると予想していた多くの専門家の見方に反している。そうした兆しはこれまでなかったのだ。そしてこの状況がすぐに変わる理由はほとんどない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)