Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 15日 ロイター] - 米国は労働市場が急速に悪化すると同時に、住宅市場もきしんでいるように見受けられる。2つのマイナス要因は相互に作用し、経済成長を窒息させるリスクがある。
労働市場の足元のデータを見ると、今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げ再開がほぼ確実視されている理由が分かる。失業率と週間失業保険申請件数がともに2021年以来で最高となった上、過去4年間で初めて失業者数が求人件数を上回った。
一方、住宅市場の圧力は高いままだ。月間の平均住宅ローン返済額はコロナ禍前の水準の2倍に近く、住宅の「購入しやすさ」を示す指標は過去最低に近い。ベセント米財務長官は今月、政府が間もなく「全国的な住宅の緊急事態」を宣言する可能性があると述べた。
ベセント氏が懸念するのも無理はない。高い住宅ローン金利と家賃の高騰は消費者支出を圧迫し、企業利益の低下につながり、最終的には採用の減少と解雇の増加を招きかねないからだ。当然ながら、失業率の上昇は消費への下押し圧力をさらに強め、悪循環を生み出す。
こうした懸念に加え、多くの住宅所有者は引っ越したくても引っ越せない状態にある。コロナ禍後に超低金利で借りた住宅ローンに足かせをはめられているからだ。この結果、折しも労働市場がより柔軟かつ動的な労働力を必要としている今、つまりは最悪のタイミングで、人口移動が減少している。
<移動の減少>
高い住宅ローン金利と家賃の高騰は、長期にわたる米住宅危機を深刻化させている。米不動産情報サイト、ジローによると、米国の住宅供給は現在、必要戸数を470万戸下回っており、この不足数は過去最多記録だ。
このことは、長年柔軟性を称賛されてきた米国経済にとって悪いニュースだ。入手可能な住居が不足していると、労働人口の移動も制限されるからだ。これは翻って、特定の地域で失業率の上昇を招く一方で、景気の良い地域では企業が人手不足を埋めにくくなる可能性につながる。
マッキンゼーのシニアパートナー、シェリ・スチュワートIII氏は、住宅へのアクセスの制約は「労働市場の効率性および柔軟性に直接影響する」と指摘する。「住宅を入手しやすくする対策を打てば、こうした不均衡が緩和され、より動的でバランスの取れた労働市場につながり得る」という。
実際、バイパーティザン・ポリシー・センターが昨年の報告書で引用した学術調査によると、ニューヨーク市、サンフランシスコ、サンノゼという、米国で最も「生産性の高い労働市場」3カ所で、1964年から2009年にかけて十分な住宅が供給されていたとすれば、米経済の規模は実際より3.7%拡大していたと推計される。住宅を入手しやすくする取り組みを怠ったことが、現在の景気サイクルだけでなく、長期にわたって米経済を害しているのだ。
<何をすべきか>
もっとも、お先真っ暗というわけではない。
第1に、住宅不足でもテクノロジーによって一定の労働移動が維持できるかもしれない。バイパーティザン・ポリシー・センターの調査によると、2019年から21年にかけて、リモートワークが可能な家計の数は3倍に増えた。北東部や中西部から、南部やマウンテン・ウエスト(ロッキー山脈を中心とした地域)への転居がここ数年で増えているのは、これが一因かもしれない。
しかし在宅勤務の効果には限界がある。2022年の米国内の人口移動率は9%未満と、1948年から80年にかけての年間平均の約20%から大きく低下していることに注意しよう。
第2に、住宅市場の逼迫が和らいでいる兆候も一部にはある。長期国債利回りが最近低下したことで、期間30年の住宅ローン金利は6.35%と、11カ月ぶりの低水準を付けた。一方、在庫増加と需要低迷を背景に、住宅価格は頭打ちだ。
しかし国民は納得していないようだ。マッキンゼーの調査によると、約70%は住宅コストの上昇を懸念しており、この比率は1年前から8ポイント上昇している。実際の数字がどうであれ、このマイナス感情は消費支出を冷え込ませかねない。雇用を巡る不安の高まりと合わされば、なおさらだ。
それでは他に何ができるのだろうか。
明白な答えは、住宅を新築することだ。住宅セクターへの投資は、経済成長と税収の両面で強力な乗数効果をもたらす。マッキンゼーの推計では、住宅不足解消のための投資は最大170万人の雇用を創出し、2035年までに国内総生産(GDP)を累計2兆ドル近く拡大させる可能性がある。
しかし、この規模の投資は、特にこのセクターの環境がこれほど脆弱な現在は実行が難しい。しかも時間を要する。
従って短期的には、米経済は住宅市場の再生を頼りにすることはできない。より現実的には、金融緩和、財政拡大、そしてトランプ政権の規制緩和が2つの大きな逆風を相殺するだけの追い風を吹かせてくれることに期待すべきなのかもしれない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)