Marc Jones
[ロンドン 30日 ロイター] - トランプ米大統領が過激な選挙公約を掲げて再選を果たし世界最大の経済大国を率いることになり、投資家は今年の金融市場が荒れるだろう予想した。しかしここまでの展開、特にドルの劇的な下落はほとんど誰も予測しなかった。
たどった道のりを問題にせず数字だけを見れば、主要市場の多くは穏やかな様子だ。
世界株式指数.MIWD00000PUSは過去最高値を記録し、世界の金融市場で基準とされる金利は低下し、VIX(ボラティリティー・インデックス).VIX、いわゆる「恐怖指数」はほとんど動いていないように見える。
だがじっくりと観察すれば混乱状況は明らかだ。これらの市場は過去6カ月間で極端な価格変動を経験し、とりわけドル.DXYの振れが大きい。
世界の基軸通貨ドルは10%以上下落した。変動相場制が1970年代初めに始まってから上半期としては最大の下落幅だ。一方で金は25%上昇し、金と交換可能なドルを基軸通貨としたブレトンウッズ体制が終了してから最大の上昇幅となった。
欧州最大の資産運用会社アムンディのヴィンセント・モルティエ主席投資責任者は、こうした状況をトランプ氏の貿易紛争と、特にトランプ氏が「大きく美しい」と呼ぶ包括的な税制・歳出法案が背景にあると考えている。同法案は米国の財政赤字の水準を国内総生産(GDP)比6─7%に維持し、36兆2000億ドルに積み上がった債務を膨張させ続けるのだ。
モルティエ氏は「上半期の市場にとって最も大きかった出来事は、こうした米国の弱体化とドルがこれからどのような相場動向をたどるのかどうかという疑問が生じたことだ」と述べ、ドルはたとえ緩やかであっても今後も下落し続けると予測した。
また注目すべきなのは「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米巨大IT企業の苦戦ぶりだ。各社は長い間、投資家の保有証券として投資収益をもたらしていたが、今年は中国のテック企業株.HSTECHが20%上昇し欧州の武器メーカー株.SXPAROが70%近くも急騰したのに対して、これまでのところ運用成績で圧倒的に引き離されている。
欧州の防衛関連銘柄の急騰もまたトランプ氏が後押しした。トランプ氏は米国が欧州の軍事的保護の規模を縮小する方針を示し、欧州とほかの北大西洋条約機構(NATO)加盟国に再軍備を迫ることになった。
ドイツが防衛費増加のために自らに課した債務ブレーキ制度を見直すという歴史的な計画は140兆ドル規模に相当する世界の債券市場の関心を集めたが、米国の長期債務懸念や日本の記録的な借り入れコストがその後の大半の動きを左右している。
<グレート・ローテーションか>
ドルの不振はまたユーロEUR=EBSの12.5%上昇につながったほか、円は約8%上がり、スイスフランは13.5%高くなっている。さらに新興国市場にも上昇する機会を与えている。
トランプ氏がロシアのプーチン大統領と関係を修復したため、ルーブルは40%と途方もなく急騰したが、西側の対ロシア制裁で厳しく制限されたままで、金生産国ガーナのセディの42%上昇に及ばない。
東欧はポーランドのズロチ、チェコのチェココルナ、ハンガリーのフォリントがいずれも13─17%上昇している。台湾ドルは先月わずか2日間で8%急騰し、メキシコのペソや新興国市場の現地通貨建て債券も貿易紛争にまつわるあらゆる精神的なダメージにもかかわらず年初来で2桁の上昇を享受している。
米債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)のプラモル・ダワン新興国市場ポートフォリオ責任者は「こうした状況は資本配分の見直しとしてこの20年間で経験したことのない最も顕著な動きだ」と述べ、米国の資産から新興国市場や他の市場へ資金が移動していると指摘した。「しかもこうした資金移動はほんの初期段階だと考えている」という。
外国為替市場で最も振るわない位置にはアルゼンチンのペソやトルコのリラなどおなじみの通貨が並ぶ。リラは約11%下落しており、下落分の大半はエルドアン大統領の主要な政敵が3月に拘束された後に生じた。
暗号資産(仮想通貨)ビットコインBTC=はいつも通りに価格変動が激しいままだ。トランプ氏の就任時に約20%上昇したが、米国の暗号資産準備を巡る構想が受け入れられないと約30%下落し、その後3カ月かけてようやく回復している。
原油もまた乱高下した。トランプ氏の一律関税計画が世界的な景気後退に対する懸念を引き起こした後、4月に1バレル=60ドルを割り込むまで30%下落した。しかし今月になって、イスラエルと米国がイランを空爆した際に一時1バレル=80ドルを超えた。
<年後半も波乱含み>
銅は世界経済の先行き懸念に逆らうかのように11%上昇したが、輝きを見せたのは貴金属だった。銀は金と並んで24%高くなり、プラチナは10年ぶりの高値の更新を繰り返してほぼ50%上がった。
下半期に向けて一息つく間もあまりないだろう。トランプ氏は税制・歳出法案を7月4日の米独立記念日までに議会で可決させたい意向だが、相互関税の一時停止期限をその5日後に迎えるのだ。
期限切れが近づき、米国と相手国が相互合意する基本的な関税水準に向けた進展が乏しい状況で、金融市場がどれだけリスクに鈍感でいられるのかどうか疑問が残る。