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COLUMN-金の安全性にテザー大量購入が影、暗号資産裏付け需要で異変も

ロイターNov 26, 2025 4:36 AM

Mike Dolan

- 金を鉄板の安全資産として購入している投資家にとって、ここ数カ月金の大口買い手の一角が、投機色の極めて強い暗号資産(仮想通貨)市場の有力発行体だという事実は、いったん立ち止まって考えるべき材料になるはずだ。

今年の上昇率が56%という金の記録的高騰を巡る物語は普通、フィスカル・ドミナンス(財政に対する金融政策の従属)や高水準の公的債務への懸念や、金融緩和環境、ハードカレンシーに対する信頼喪失などに集約される。

だが、ことさら取り沙汰されるのは、正確には一体誰が金を買っているかだ。

つい最近まで注目されていたのは中国や途上国の中央銀行の準備資産運用担当者だ。彼らの一部は依然、ロシアが2022年のウクライナ侵攻後に西側からドル・ユーロ資産を凍結された事態に不安を抱いている。その他にも相当規模の民間による購入、金の上場投資信託(ETF)への力強い資金流入、そしておなじみの「安全への逃避」に伴う買いが挙げられる。

ただ、ほぼ見逃されていたのはドルに価値が連動するステーブルコインのUSDTと、金を裏付け資産とするトークンのテザー・ゴールドを発行するテザーが、年央の期間を通じて主要な買い手だったことだ。

投資銀行のジェフリーズが計算したところでは、テザーによる金の購入規模は9月30日までの2四半期にわたって中銀の購入規模を上回った。

9月30日時点でテザーが顧客のために保有していた金は116トン、約140億ドル相当だった。幾つかの大きな中銀を除けば単一の保有者として最大で、韓国やハンガリー、ギリシャなどの保有規模に匹敵する。

<2つの波>

今年に入ってからの金の急騰は2つの波に分けられる。1つ目は、トランプ米大統領が「相互関税」を発表して市場に衝撃が走った4月をピークとする4カ月にわたるオンス当たり1000ドル近くの値上がりで、この間ドルが10%下落したことと軌を一にしている。2つ目は、8月半ばから10月半ばまでのやはり100ドル近い上昇だが、この時期はドルの一段安を伴っていない。

中銀が巨大プレーヤーだということは引き続きわざわざ話題にならない。2025年第2・四半期と第3・四半期の総購入規模は約220トンだった。ただし、価格に相当な影響をもたらしたのは周縁的なプレーヤーだったように見える。

ジェフリーズが指摘するように、金上昇第2の波はテザーの買いが急速に増えた流れと足並みがそろっている。第3・四半期の購入規模だけでも約26トンと、金需要全体の2%前後、判明している中銀購入量の12%前後に相当した。第2・四半期の購入規模も、中銀の買いの14%前後だった。

「テザーの金需要は短期的な供給のひっ迫をもたらし、市場心理に影響した。そしてそれが今度は投機的な資金流入につながったかもしれない」とジェフリーズは結論付け、同じ規模でさらなる需要が見込めるとしている。

同水準での買いが継続するかどうかに関して、ジェフリーズはテザーがUSDTとテザー・ゴールドのために金を買っている点に言及している。

直近の報告によると、テザーの金保有はUSDTの準備資産として104トン、テザー・ゴールドの裏付けとして12トンだった。

ところが、7月には米国で包括的なステーブルコイン規制となる「ジーニアス法」が成立し、ステーブルコインの準備資産に金を充てることは禁止された。

このジーニアス法成立後にテザーがなぜUSDTの準備資産として金を活発に購入したのかは今一つ判然としないが、いずれにしても金の現物価格は10月半ばに過去最高の4379ドルを記録して以降軟調に推移し、足元は最高値を6%余り下回っている。

<投機色帯びる恐れ>

金と暗号資産のエコシステムが広範に絡み合っているのは、ある種の思想的な意味合いがある。主要通貨の過剰供給や価値切り下げといったテーマが、両者の需要を押し上げているもようで、買い手は確定利益ではなく、有限な供給による「価値の保存」を理由に保有すると主張している。

ただ、実際には両者は全く異なる性質を持つ生き物のように振る舞う。

ビットコインのような仮想通貨は過去10年で人気が爆発的に広がったが、依然として価格は不安定で投機色が強い。

最近の価格変動はその点を浮き彫りにしている。今年の主要通貨に対する不安は秋になって円に向かったものの、ビットコインはテック株の急落に伴う典型的な「リスク回避」の動きに連なり、6週間で価値が約33%消失した。

これは暗号資産全般にとってごく普通に見えるかもしれないが、ステーブルコインの想定とは明らかに食い違っている。ステーブルコインの価値の根拠は、完全に裏付けられ、即座に換金可能なデジタルドルにあるからだ。

暗号資産に重大なストレスが周期的に発生するのはある種の宿命と言える。何らかの理由でステーブルコインの需要が急激に減少へと転換した場合、その圧力は必然的に裏付け資産にのしかかる。そして現在、裏付け資産にはかなりの規模の金が含まれている。

ジェフリーズは、ステーブルコイン市場に由来するさらなる金需要を予想している。だが、多くの人々はより暗い結論を導き出すかもしれない。つまり暗号資産の不確実性が、本来「安全資産」である金に、投機的な潮の満ち引きを呼び込んでしまったのではないかということだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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