Yoruk Bahceli Stefano Rebaudo
[ロンドン/ミラノ 8日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は11日の理事会で、政策金利を2会合連続で据え置く見通しだ。投資家はECBの利下げ終了が示唆されるかどうかに注目している。
ECBのラガルド総裁が7月にタカ派的な発言をしたことで、市場の追加利下げ期待は後退した。その後、米国と欧州連合(EU)の間で通商合意が成立し、景気も底堅いため、現時点でECBが行動を起こす必要はほとんどない。
チューリッヒ・インシュアランス・グループのチーフ市場ストラテジスト、ガイ・ミラー氏は「ECBは現時点で金利据え置きに不安を感じていない」と語った。
市場が注目する主なポイントは以下の5つ。
1.ECBは11日に何をするか
主要政策金利を2%で据え置く。
前回会合以降、インフレ率は予想をわずかに上回り、第1・四半期の経済成長率はECBの予想の2倍に達した。米国との通商合意で不確実性も低下している。
このため、今回、利下げを実施したり、今後の方向性を示唆したりする理由は乏しい。
HSBCのチーフ欧州エコノミスト、サイモン・ウェルズ氏は「ECBは将来の金利決定について意図的に情報を与えないようにしている。それが全体のメッセージとなるだろう」と述べた。
2.EUと米国の通商合意で経済見通しは変わるのか
一見すると、あまり変わらない。
ラガルド総裁は、15%の関税合意はECBの基本予想だった10%と大差ないと述べている。
一部のエコノミストは、関税による経済への打撃が依然として不透明で、今後数カ月間で徐々に影響が出ると警戒している。問題がさらにエスカレートするリスクもある。
INGのマクロ部門グローバルヘッド、カーステン・ブルゼスキ氏は「私は、ECBが恐らく理事会で示すとみられる認識よりも、この合意についてやや批判的もしくは懐疑的だ」と語った。
3.ECBの利下げサイクルは終了したのか
必ずしもそうではない。
複数の当局者は追加利下げの可能性を排除しておらず、インフレ率が予想より鈍化するのか、加速するのかについても、ECB内の見方は分かれている。
ロイターのエコノミスト調査では、利下げが終了したとの見方が示されている。一方、トレーダーの間では、来年の夏までにあと1回の利下げが実施される確率が約70%あると予想されている。
利下げが終了したと考える向きは、ラガルド総裁が追加利下げへの高いハードルを設けたため、実行には見通しが一段と悪化する必要があると指摘。ドイツの景気刺激策を考慮すると、次は利上げになると予想する声もある。
一方で、関税による成長率への予想以上の打撃、債券市場のストレス、米利下げに伴うユーロ高と一段のインフレ鈍化が、利下げ再開の理由になり得るとの見方もある。ECBは来年のインフレ率が目標を大幅に下回ると予測している。
ECBが更新する経済予測にも注目が集まる。エコノミストの間では2025年の成長率とインフレ率の予測がわずかに上方修正されるとの見方が多いが、来年の予測については見方が分かれている。
4.フランスの政局の混乱は何を意味するのか
新たな不透明要因だが、ECBの考えに影響を及ぼすのは時期尚早だ。
フランス政府は8日、議会の信任投票で敗北する可能性が高い。市場のストレスが高まれば、ECBが「伝達保護措置(TPI)」を通じて国債を購入する可能性が再び焦点となるかもしれない。
TPIは自国に非のない理由で債務が圧力にさらされた国を支援する制度で、フランスに適用するのは難しい。
アナリストは、総選挙になれば、フランスとドイツの10年債利回りスプレッドDE10FR10=RRが、現在の76ベーシスポイント(bp)から90bp近辺まで拡大する可能性があると指摘する。
昨年も同様の水準に達したが、ECBはTPIを発動せず、他の国への大きな伝播もなかった。
5.ECBは中銀の独立性を懸念しているか
間違いなく懸念している。
ラガルド総裁は、米政権が連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長やクック理事の解任を試みれば、世界経済にとって「極めて深刻な危険」になると述べている。
当局者やエコノミストは、FRBが利下げ要求に応じれば、インフレが進行し、金融情勢の引き締まりがユーロ圏に波及し、一段のユーロ高につながる可能性があると警告している。
チューリッヒのミラー氏は「金融の安定性の問題だ。FRBが独立性を失えば、金融の安定性が危険にさらされるだろう」と語った。