Mike Dolan
[ロンドン 11日 ロイター] - 9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で何が起ころうとも、トランプ米大統領の直近の指名によって引き起こされた連邦準備理事会(FRB)の構造の全面的な見直しに比べれば大したことではないだろう。
任期満了前に退任したクーグラーFRB理事の空席を一時的に埋めるため、 トランプ氏はミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を指名した。これはFRBの構造と独立性、さらに金融経済での中心的な役割に関する論議を再燃させた。
これまでの議論はどれだけ早く政策金利を引き下げるべきかという点に大きな焦点を当てていたため、これは大きな飛躍のように聞こえるかもしれない。また、数多くの大きな障害が、大規模なFRB変革の可能性を間違いなく制約している。
まず、FRBの投票制度と指名プロセスの再編、およびFRBを政府の考え方により緊密な連携させるべきだと著述しているミラン氏は、理事就任に上院の承認を得ることが必要だ。
ミラン氏は既にCEA委員長として承認されているため、承認のプロセスは迅速に進むかもしれないが、ミラン氏は表向きは、クーグラー氏の残る任期が満了する来年1月までしかFRB理事を務めない。また、現在の制度ではミラン氏は投票権を1票しか持たず、トランプ氏は来年5月にFRB議長の任期が満了するパウエル氏の後任をまだ指名していない。
しかし、FRBウオッチャーの大部分は、ミラン氏について次期議長候補とは見なしていなくても、任期満了まで理事を務めることが最終的に承認されると考えている。
そして、ミラン氏と、パウエル氏の後任議長、現時点での次期議長有力候補であるウォラー理事、そしてトランプ氏が指名したボウマン副議長を合わせると、トランプ氏はFRB理事の過半数を握ることになる。
少なくとも金融政策に関しては、FOMC投票メンバー12人のうち、輪番制で5人の地区連銀総裁が投票権を持っているため反対意見を表明する可能性がある。とはいえ、先週発表された雇用統計を受けて見解を変えた可能性が高く、市場では9月のFOMCで利下げ再開を決めるとの見方が優勢だ。
一方、長期的な構造変化の種をまく行為は理事会自体に委ねられることがより明白だ。
<コップの中の嵐か>
FRBの構造、機能、独立性について再考するというより広範な問題は、解決がはるかに難しい課題となる。トランプ氏が指名したメンツが主導する理事会が再考に乗り出したとしても、議会からのかなりの反対に見舞われ、いくらかの時間を要するだろう。
FRB構造改革の憶測を一蹴する声は多い。
FRBの組織全体を見直す必要性があると7月に訴えたベセント財務長官も米NBCテレビで今週、トランプ氏はFRBを「非常に尊敬」しており、単に「審判を操ることを好む」だけだと語った。
元ニューヨーク連銀総裁のビル・ダドリー氏をはじめとする元高官らも、FRBとその独立性はトランプ氏からの現指導部に対する度重なる攻撃に耐えられると考えている。
ダドリー氏はブルームバーグで今週発表した論説で「このドラマに惑わされないように。FRBの経済運営に関しては、ほとんどコップの中の嵐に過ぎない」と記した。
だが、米国の貿易政策の根本的な見直しや、米国の赤字と債務の削減に関して議論を呼ぶ「マールアラーゴ合意」にも取り組んだミラン氏の指名は、トランプ氏のより広範な世界観がFRBに注入されることを示す。
デジタル資産、暗号資産(仮想通貨)、(法定通貨に連動する仮想通貨)ステーブルコインを劇的に取り入れるトランプ氏の意向は既に現実化に向かっており、貨幣の世界と銀行システムを変革する可能性を秘めている。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、ケネス・ロゴフ氏は国際的非営利団体(NPO)「プロジェクト・シンジケート」のサイトでこのほど発表した論文で、トランプ氏のステーブルコインを巡る枠組みが、FRBが存在しなかった19世紀と驚くほど類似していると指摘した。
その中で「当時、民間銀行は独自のドル建て通貨を発行し、詐欺や不安定性、頻繁な銀行取り付け騒ぎなどの深刻な結果を招くことが多かった」と記した。同様の問題はステーブルコインでも「必ず発生する」と指摘しながらも、現在の主要なステーブルコイン発行業者は19世紀の同業者と比べれば少なくとも透明性はより高く、資本基盤もより充実していると付け加えた。
一方、民間通貨の世界でFRBの役割がどうなるのかはまた別の問題だ。
トランプ氏の軽率な発言や即興的な発言について支持者らは、文字通り受け取られすぎているとし、結局は合理的な計画に収まるのに取り越し苦労をしていると主張する。
しかしながら、トランプ氏が米国と世界の機関を再編する意図を軽視することは、愚かな判断だったことが今年も証明されたばかりだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)