Hannah Lang
[12日 ロイター] - トランプ米大統領は先月、法定通貨などを裏付けとする暗号資産(仮想通貨)の一種であるステーブルコインの規則法「GENIUS(ジーニアス)法」に署名し、連邦レベルの規則と指針が整った。これを受けて金融各社はドルを裏付けとする自前のステーブルコインの発行に向けた準備を進めているが、その道のりは決して平坦ではないと専門家は警告している。nL6N3TE0UW nL6N3TF0RS
ジーニアス法はステーブルコインの普及促進を目的とした米国初の法律で、専門家によるとステーブルコインが日常的な決済、送金手段となる道が開かれる可能性がある。
ドルと1対1で連動するなど一定の価値を保つように設計されているステーブルコインは近年利用が急増し、特にビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨との間で資金移動を行うトレーダーが利用している。
現在多くの企業が、即時決済や即時送金といったステーブルコインの利点を活かすべく戦略を模索中。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は6月、小売り最大手ウォルマートやオンライン小売りのアマゾンも導入を検討していると報じた。
しかし専門家はジーニアス法の成立でステーブルコインの導入が一気に進むことはないと見ている。導入に当たって戦略的、技術的に複雑な検討が多々必要なためだ。
企業は長期のプロセスを経て自前のステーブルコインを発行するか、あるいは既存のステーブルコインをビジネスに導入した方が得策かどうかの判断を迫られる。
手始めに必要なのはステーブルコインの利用目的を決めること。例えば、小売りプラットフォームが顧客向けに商品購入用のステーブルコインを発行すれば、暗号資産に馴染んだユーザー層を引き寄せることができそうだ。また、低コストで即時に送金できるステーブルコインの機能を活かし、企業内部で国境を越えた支払いに利用するケースも考えられる。利用目的は自前による発行か、パートナーと組むかという選択にも影響する。
銀行以外の事業者はジーニアス法によってマネーロンダリング防止措置や顧客確認要件を順守するよう義務づけられるため、導入によって新たなコンプライアンス(法令順守)コストや監督義務が発生する。
ムーディーズのコンプライアンス・第三者リスク管理ソリューション部門のシニアディレクター、ジル・デウィット氏は「顧客確認のリスク管理や規制変更への対応で既に堅牢なプログラムを備えているか、もしくはこうした体制の確立に既に取り組んでいる企業は競争面で優位に立つ可能性がある」と指摘する。
この面で優位性を享受する可能性が高いグループの一つが銀行だ。制裁関連リスクの監視や顧客の身元確認で豊富な経験を持つためだ。
バンク・オブ・アメリカBAC.NとシティグループC.N は自前のステーブルコイン発行を積極的に検討していると、両行の最高経営責任者(CEO)が先月の決算説明会で明らかにした。モルガン・スタンレーMS.Nなどがステーブルコインの動向を注意深く監視しているほか、JPモルガン・チェースJPM.Nのジェイミー・ダイモンCEOも詳細は伏せつつ、ステーブルコインに関与する方針を示した。
FISのデジタル通貨商品・戦略責任者のジュリア・デミドワ氏によると、銀行がステーブルコインを本格稼働させるには、ステーブルコインの保有が流動性要件にどのような影響を与えるかなどいくつかの要因を検討する必要がある。今の米銀行規制において銀行がステーブルコイン資産をバランスシートに計上する場合、リスクウェート次第では資本を増やす必要が生じる可能性がある。
もうひとつの重要な論点はステーブルコインの発行形態だ。
ステーブルコインは他の仮想通貨と同じように取引を記録するデジタル台帳であるブロックチェーン上で作られる。現在ある数百のブロックチェーン・ネットワークの中で最も人気の高いのはイーサリアムとソラナだ。両者はいずれも公開型、つまり「パーミッションレス(自由参加型)」ブロックチェーンで、ネットワーク上の全ての取引を誰でも閲覧することができる。
デミドワ氏によると銀行は自前の非公開型、つまり「パーミッション(許可)型」ブロックチェーンを選択する可能性がある。自由参加型ではガバナンスや管理体制が整わないためだ。
一方、ステーブルコインの発行インフラを提供するバスティオンのナシム・エデキオアクCEOのように、自由参加型の利点を評価する向きもある。普及が進み、取引急増も耐え抜くなど大規模な実地テストを経た既存のブロックチェーンへの関心は高いという。
ジーニアス法は成立したが、施行は数年先になる可能性があり、その間に銀行規制当局は空白期間を埋めるための規則を策定する見通しだ。例えば通貨監督庁(OCC)はリスク管理やコンプライアンス要件を明確にするための規則を策定すると予想されている。