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COLUMN-過去最大の石油備蓄協調放出、 供給ショック緩和効果は「限定的」

ロイターMar 11, 2026 11:45 PM

Ron Bousso

- 国際エネルギー機関(IEA)が取りまとめた4億バレルの石油備蓄協調放出は未曾有の規模で、イラン攻撃に伴う破壊的な供給ショックを和らげる上で是非とも必要とされていた。しかし中東からのエネルギー輸出がせき止められている限り、その効果は限定的にとどまるだろう。

IEAは11日、加盟32カ国が協調して戦略石油備蓄を過去最大規模放出することを全会一致で決定した。

今回の放出規模は前回の2倍以上だ。2022年3月の前回はロシアのウクライナ侵攻を受けて実施されており、それまでで最大級だった。

世界の石油市場が直面する危機の大きさを踏まえれば、これだけの放出規模は間違いなく正当化できる。米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まった2月28日のすぐ後からホルムズ海峡が事実上封鎖されて以来、世界の生産量の約2割に当たる日量2000万バレル弱の原油がペルシャ湾岸内部で停滞しているからだ。

一方で混乱の度合いに比べると、せっかくの放出規模も霞んで見えてしまう。戦闘が始まってわずか11日で、市場の供給不足は約2億2000万バレルに達した。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は、原油輸出ルートの一部をペルシャ湾岸以外の港に切り替えつつあるものの、出荷量は限られ、不安定でもある。

だからイランでの戦闘と、ホルムズ海峡の事実上の封鎖がいつまで続くかが、今回の石油備蓄放出が意味のある形で市場安定に寄与するか、あるいは単にダメージの浸透を遅らせるだけに終わるかを決める上で重要になる。

<鍵握る放出の詳細>

IEAが1973年のオイルショックに対応するため経済協力開発機構(OECD)加盟国によって創設されて以来、石油備蓄の協調放出を取りまとめたケースは4回しかない。

そうした措置が滅多に実行されないことから、現在の状況の重大性とともに、協調放出の効力にも限界がある可能性が浮き彫りになっている。

今回の協調放出はまだ詳細が発表されておらず、その詳細部分が実際の効果を判断する上で大事になる。

まず問題は放出ペースで、IEAは加盟各国がそれぞれ放出のタイミングを決めるとしている。さらに重要なのは、放出された石油がどれだけ素早く市場に届くかだ。

JPモルガンの試算では、前例を踏まえると協調放出で市場への流入は最大で日量約120万バレルに達する可能性がある。22年の放出時はおよそ100万バレルだった。ただそうした流入量では、現在市場で起きている供給面の混乱はごく一部しか解消されず、大幅な供給不足状態は続いてしまう。

<痛手大きいアジア>

流入規模と同じぐらい、どの場所に流入するかも大事だ。足元までの供給ショックで最も痛手を受けているのは、全輸入のおよそ60%をペルシャ湾岸に依存するアジア地域と言える。アジアの精製事業者は既に稼働率引き下げに動き、幾つかの国では目減りする在庫を守るために燃料の配給制を導入している。

OECD加盟国で戦略石油備蓄量第2位の日本は、45日分に相当する8000万バレル前後を早ければ16日に放出すると表明した。これは日本の精製事業者にとって迅速かつ目に見える安心材料だ。

米国は具体的な放出量を明らかにしてないが、協調放出において最大量を占めるのはほぼ間違いない。米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、メキシコ湾岸沿いの施設にある米国の戦略石油備蓄は現在約4億1500万バレルと、貯蔵能力の60%弱となっている。

しかしアジアの精製事業者にとって、米国の放出はそれほどの援護射撃にならないかもしれない。米国のメキシコ湾岸からアジアまでタンカー輸送にかかる日数は航路によって40─60日と、中東からの2倍強に伸びる。

輸送料の高騰も、入手遅れに拍車をかけるだろう。中東情勢緊迫に伴ってタンカー輸送料が跳ね上がり、米国のメキシコ湾岸からシンガポールまでの輸送に上乗せされる費用は1バレル当たり10─12ドルでカーゴ価格の約15%と、イラン攻撃前の2─3%を大幅に上回っていることがロイターの計算で判明した。

より長期的なコストも生じる。大規模な備蓄放出は、現在の紛争が長期化ないしさらに激化した場合に、石油消費国のバッファー(緩衝材)が極めて薄くなることを意味するだろう。

各国が物価高騰や経済減速、社会的緊張の脅威への対処に苦しんでいる中で、石油備蓄協調放出は市場に不可欠な安心感をもたらしてくれることに疑問の余地はない。だが中東からのエネルギー輸出が迅速に再開されなければ、歴史的な備蓄放出もあっという間に「大海の一滴」に終わってしまうだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

免責事項:本サイトで提供する情報は教育・情報提供を目的としたものであり、金融・投資アドバイスとして解釈されるべきではありません。

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