Taosha Wang
[香港 28日 ロイター] - 今年初めからの7カ月で中国の技術や企業に関するさまざまなニュースが飛び込み、市場では不安と陶酔感が気ぜわしく入れ替わる展開になった。ただそうした騒動を通して浮かび上がってきたのは「格好良さ(cool factor)」だ。
1月はバイデン前米政権が中国政府とのつながりを理由にTikTok(ティックトック)のアプリ利用禁止を命じ、同社の米国内サービスが1日間停止。その後トランプ政権が素早くこれを覆す決定を下した。
数日後には、中国の人工知能(AI)企業ディープシークが低コストで高性能の大規模言語モデル「R1」を公開して世界に衝撃を与え、AI開発競争の主導権を握るのは誰かを巡る激しい論争を巻き起こした。
5月に入ると米中双方が関税率を100%超まで引き上げ、両国の緊張がかつてないほど高まって二国間貿易が一時、事実上途絶。ただ次第に緊張は和らぎ、夏までに中国は重要資源のレアアース(希土類)輸出を、米半導体大手エヌビディアはAI半導体の対中輸出をそれぞれ再開した。
こうした波乱の時期を通じて中国の資本市場は比較的堅調を維持し、MSCI中国指数は年初から今月25日までの上昇率が約25%と、MSCI全世界指数の12%やS&P総合500種の9%をアウトパフォームしている。
注目されるのは、この力強い値動きをけん引しているのが単に典型的なビジネスサイクルの変動だけでなく、技術革新や協業、若者文化に根ざす魅力にある点で、中国の次の成長サイクルが過去とは非常に異なる性格を帯びそうな様子がうかがえる。
<イミテーターからイノベーターへ>
安価な模倣品製造者(イミテーター)から世界的なイノベーターに進化した中国の象徴と言えるのは、電気自動車(EV)市場の支配的地位だ。電池メーカーとして出発し、今や時価総額が1500億ドルに達する中国EVメーカーのリーダーになったBYD(比亜迪)はかつて、米EV大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)から車に魅力がなく、技術力も弱いとこき下ろされた。
ところが中国政府による充電施設網の整備を含めた強力な支援を得た10年の発展期間を経て、BYDはついに世界販売台数でテスラを追い抜いた。昨年は世界で販売されたEVの2割がBYD製で、同社の市場シェアはテスラの2倍に拡大している。さらにBYDの車は他の中国車と同じく、現在では米国のライバルと遜色ないほど洗練されたデザインと新機軸の装備を搭載している。
また一部の中国企業は製品自体の革新性だけでなく、新たなビジネスモデルや販売戦略の実験にも取り組んでいる。
例えばアリババが始めたライブコマース(ライブ配信を通じた販売)はアマゾン・ドット・コムやインスタグラム、ユーチューブでも採用され、ウォルマートさえも(TikTokとの提携で)米国内のZ世代やミレニアル世代を狙って展開している。
中国の泡泡瑪特国際集団(ポップマート)のような新興勢力も新規のビジネスモデルを投入。空けるまで中身が分からない「盲盒(ブラインドボックス)」商法で販売された箱の中にはランダムに選ばれたぬいぐるみのフィギュアが隠され、多くのインフルエンサーがそれを高級ハンドバッグに飾っている。
これは中身が分からないというスリルに目を付け、中国国内市場を超えて爆発的な需要を創出する戦略であり、実際効果を発揮しているもようだ。ポップマートの中国本土外売上高は昨年の総売上高の約40%を占め、今年上期の利益は前年同期比で少なくとも350%増加すると予想されている。
<オープンソース化戦略>
歴史的には知的財産を巡る緊張が中国の国際貿易の足かせになってきた。しかし現在は、オープンソースの協力関係を受け入れ、明白な方針転換が見て取れる。
中国は今、ソフトウエア開発者がコードを共有・管理するためのプラットフォーム「ギットハブ」において貢献度が急速に高まり2番目の大きさになった。非営利のオープンソースソフトウエア支援団体アパッチ財団やLinux財団にとっても、中国のファーウェイ(華為技術)やテンセント(騰訊控股)は最有力の企業スポンサーに名を連ねている。
ディープシークの「R1」はその好例で、寛容なMITライセンスの下で公開され、グーグルの「アパッチ2.0」やメタの「llama」のライセンスと異なり、大規模な商業利用を認めており、世界中で無数の派生モデルが生まれた。この開放性が開発者の忠誠心を高めるとともに、AIの標準化作業に影響を及ぼし、地政学的な摩擦を回避する可能性を秘めることになる。
こうした変化を支えているのが開発研究の基礎となる科学力の充実だ。科学誌ネーチャーによると、昨年の質の高い論文発表数で中国は2年連続で世界の首位に立った。論文発表の範囲は、米国の技術力が優越していると見なされてきた半導体設計・製造にも及んでいる。昨年最も引用された論文の半数余りは中国人研究者が執筆していた。
<逆風と期待>
とはいえ中国のビジネスの先行きが全面的に明るいというわけではない。政府によるさまざまな刺激策が打ち出されても、製造業部門の利益は前年比で1.1%減少した。
EVや料理宅配などの分野では価格競争も非常に激化し、当局が「非合理的な」競争に待ったをかけるため介入している。
もう1つの構造的な問題は、若者(学生を除く16-24歳)の失業率が14.5%と、労働力人口全体の5%をはるかに上回る水準で高止まりしていることだ。
中国の将来の成長を「格好良さ」が主導するなら、若者のキャリア見通しを明るくし、彼らの独特の消費志向と起業努力を十分に支えられるようにしなければならない。
ただこうした課題はあっても、技術革新と協業に前向きな姿勢は引き続き中国の国際社会における自己認識を変化させる余地がある。重要なのは、これらの要因にけん引される経済成長はより均等かつ特異で、不動産やインフラ・設備投資といった過去の成長エンジンと比べて浮き沈みが小さい点だ。
中国はもはや単なる世界の工場ではなく、文化的に反響が大きい技術革新の供給者になっている。過去数十年にわたる米国の足跡をたどれば、格好良さの価値は決して過小評価してはならないことが分かる。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)