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再送-COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕米関税の「ひな形」崩した日本、強気姿勢に海外から静かな称賛

ロイターJul 23, 2025 11:10 AM

Una Galani

- 何事もどう転ぶかわからない──。これが日米首脳が23日に明らかにした関税交渉の合意からの教訓だ。日本製自動車の輸入関税が15%となったことで、トランプ米大統領は石破茂首相に花を持たせた。ただそれ以外の分野別関税では譲らなかった。これで米国の関税制度はさらに複雑になる。

週末の参院選の敗北で退陣観測が渦巻く中、石破首相は対米貿易黒字国の中で最良のディールをまとめたと宣言した。これまでのところ、それは事実だ。合意によって、日本の関税率はトランプ氏が脅していたより10%ポイント低くなった。先進国で一番乗りで合意した英国は対米貿易で黒字だが関税率は10%だ。

今回の合意で驚きなのは、トランプ氏の関税のテンプレート(ひな形)を崩したことだ。彼は自動車、医薬品、鉄鋼、半導体については分野別関税を設定し、相互関税と線引きしていた。ところが今回、日本の対米輸出の約30%を占める自動車に対しては25%の分野別税率でなく相互関税と同じ15%とした。これはトランプ関税が、全世界に適用する10%というベースライン以外は、何も確定していないことを示唆する。

もしカナダとメキシコの関税率が日本と同程度か、より低い水準になれば、日本の自動車メーカーの見通しはさらに明るくなる。例えばトヨタ自動車7203.T。世界最大の自動車メーカーである同社は昨年、米国で230万台を販売した。これは世界全体の23%に相当する。米国で販売した車は、半数以上が米国で生産したものだが、カナダとメキシコでも約80万台を製造した。両国の自動車関税が25%のままであればホンダ7267.Tと日産自動車7201.Tには特に痛手となる。

またアジアで日本と並ぶ自動車輸出国の韓国も、同様の扱いを望むだろう。

合意発表を受けて東京株式市場が安堵の上昇となったのももっともだ。TOPIX自動車株指数.ITEQP.Tは11%上昇し相場をけん引した。一方、日本国債は5年債利回りが9ベーシスポイント(bp)上昇して1.11%と4月1日以来の高水準となった。日銀は当然ながら冷静な姿勢を取った。なぜなら日本経済にとっては打撃に変わりないからだ。BNPパリバのアナリスト、ウィリアム・ブラットン氏は、日本の米国向け輸出の53%が昨年、関税なしで太平洋を渡ったと指摘する。

今回の合意に盛り込まれたその他の措置は具体性に欠け、トランプ氏が米国民に成果を宣伝できるよう上手く設計されている。例えば日本の米国への5500億ドルの投資だ。これは日本の対米輸出額の約4倍に相当するが、すでにソフトバンクグループ9984.Tが今後4年間で1000億ドル投資すると約束している。

石破氏は、米国産コメ輸入の約束について、既存のミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で輸入を増やすと説明した。これで強い影響力を持つ国内の農家は引き続き保護されることになる。もし石破氏が今回の合意をもって辞任することになっても、米国との交渉を強気の姿勢で臨んだことを批判されることはなく、外国の指導者たちは静かに彼を称賛するだろう。

●背景となるニュース

*日米、相互関税・自動車15%で合意 トランプ氏「車・コメ開放」nL6N3TJ0XL

*石破首相、日米関税交渉合意で成果強調 自動車・相互関税15%nL4N3TK06E

*米との合意に防衛・鉄鋼・アルミ含まれず、今後も協議を継続=赤沢再生相nL4N3TK090

*日米合意に為替は含まれず、ベセント氏と認識共有=加藤財務相nL4N3TK0HH

*日米合意で経済の不確実性低下、5月展望リポートと構図は不変=内田日銀副総裁nL4N3TK0GB

*報道されているような事実は全くない=自身の辞任で石破首相nP8N3SS00N

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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