
Laurie Chen
[北京 31日 ロイター] - 10月30日の米中首脳会談終了後すぐにトランプ米大統領は韓国・釜山の空港から専用機で帰国したのに対して、中国の習近平国家主席はそこから80キロほど離れた慶州で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に足を運んだ。
さっさと米国に戻ったトランプ氏と、APECという多国間外交の祭典に向けて腰を落ち着けた習氏。この2人の首脳の動きが象徴するのは、世界経済の主導役の交代だ。トランプ政権下の米国外交にとって今や、このような会議は「付け足し程度」の存在に過ぎない。
これは、世界で最も急成長し、トランプ氏の関税措置で揺さぶられた重要なサプライチェーン(供給網)拠点でもあるアジア太平洋地域に対する影響力行使の争いに起きた変化も端的に表している。
<米国第一と多国間主義支持>
米国が貿易障壁を導入し、二国間の取引を重視するのと対照的に、中国は自らを「自由で開かれた貿易の予測可能な旗手」として演出する。それこそが米国が数十年担い続けてきた役割だった。
習氏は、トランプ氏不在のAPEC首脳会議の冒頭、世界貿易機関(WTO)に言及して「われわれは本当の多国間主義を実行し、WTOの核心部分となっている多国間貿易システムの権威と実効性を強化するべきだ」と訴えた。
その上で「時代の変化を反映する形に国際経済・貿易ルールを改正し、途上国の利益や正当な権利をより適切に保護する」よう呼びかけた。
ただ中国がアジア太平洋地域において覇権主義的な姿勢を打ち出し、製造業分野で支配的地位を築き、貿易紛争の際には輸出管理などの行使を辞さないだけに、多くのアジア諸国は今回の中国による多国間主義支持にも警戒の目を向ける。
一方、トランプ氏のAPEC首脳会議欠席という決断は、米国が冷戦後に貿易を通じてアジア太平洋経済を発展させる目的で自身も創設に関わったこの枠組みへの対応を劇的に転換したことを物語る。
「米国第一主義」を掲げるトランプ氏は今年4月に「相互関税」を発表して世界を動揺させただけでなく、ほとんどの国・地域と二国間交渉によって米国の要求を押し通して多額の投資を約束させ、不満な場合には関税を引き上げてきた。
APECのような多国間外交を軽視するかのように、トランプ氏がアジアから戻った直後に出席した行事はホワイトハウスでのハロウィーンイベントだった。
こうした中で国内の成長低迷や米国との貿易摩擦に直面する中国は、トランプ氏の政策がもたらす不確実性を巧みに利用し、外交活動を展開したり、世界各地の市場での地歩の拡大に動いたりしている。
国際貿易の地図の書き換えは中国にとって単なる戦術的な施策ではなく、長期戦略を意味する。中国指導部が発表した「第15次5カ年計画(2026-30年)」の基本方針にも「多国間貿易システムを守り、より幅広い国際的な経済の流れを促進する」ための手法が盛り込まれた。
中国はメッセージだけでなく具体的な行動もしている。李強首相がマレーシアで先週開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に参加し、中国とASEANの自由貿易協定を更新する取り決めを結んだ。
トランプ氏もASEAN首脳会議中に4つの貿易協定を締結したものの、米国の貿易障壁が減った案件はゼロで、むしろ障壁が高まったケースも幾つかあった。例えば中国を念頭に他国との間で「米国の重要な利益を損なう」関係性を強化した場合、関税率が上がるとされている。
米シンクタンク、スティムソンセンターの東アジアプログラム共同ディレクター、ユン・スン氏は「一連の自由貿易協定改定で地域経済への関与という面で中国の支配的立場は強化される一方になる。それに比べて米国と各国との二国間協定は状況に左右されやすく、対象範囲も限定的だ」と指摘した。
<中国の狙い>
習氏がAPEC首脳会議に、李強氏がASEAN首脳会議にそれぞれ出席した中国は、周辺国との関係を深めたいという強烈なメッセージを送っている、というのが複数の専門家の分析だ。
しかし、周辺国の中国に対する警戒感は根強い。例えば日本の政府関係者は、希土類(レアアース)の輸出規制を例に挙げ、自由貿易の守護者のような中国の振る舞いは見せかけだと話す。
中国とグローバルサウスの関係を分析している「ザ・チャイナ・グローバルサウス・プロジェクト(CGSP)」のエリック・オランダー氏は、中国の戦略は「貿易拡大やインフラ開発、サプライチェーンの物流を通じて、この地域(アジア太平洋)を中国経済に結びつけ、各国が中国との関係を断ち切るのが現実的でなくなる段階に持って行くこと」を狙っていると付け加えた。