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〔アングル〕新興国市場、ドル難局の中で回復狙う

ロイターJul 31, 2025 4:31 AM

Marc Jones

- 今年に入ってから予想外の回復の余韻に浸っている新興国市場について、主要投資家らは状況が厳しくなる可能性があると警告している。トランプ米大統領が輸入品に課した関税の影響が明らかになるに伴い、新興国市場の押し上げ要因になったドル資産からの逃避に歯止めがかかるとの見方からだ。

トランプ氏が「米国を再び偉大にする」というスローガンを再び掲げて大統領に復帰したことで、エコノミストらは新興国経済が最悪の事態を迎えることを懸念していた。しかし、1期目と同じく、今のところ正反対の展開となっている。

モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の世界47カ国株価指数.MSCIEFは今年に入って17%上昇し、伸び率はS&P総合500種株式指数.SPXの2倍となっている。主要新興国通貨は大部分が二桁の上昇率となり、国際通貨基金(IMF)は新興国の経済成長予測を上方修正した。

これについてアナリストらは、ドルが1月から6月にかけて約10%下落したことが大きな役割を果たしたと指摘する。トランプ氏の1期目の当初6カ月間にドルが約8%下落した際、新興国の株価が約25%上昇したのと同じような現象だ。

しかし、7月は月間では今年に入ってから初めドルが上昇した。新興国から資金を吸い上げてきた「マグニフィセントセブン」(超大型ハイテク7銘柄)は、トランプ氏が貿易相手国に「相互関税」を課すと発表した4月2日の「解放の日」以降の伸び率が新興国株式指数の約2倍に達している。

元シティ新興国市場経済統括で、現在はシンクタンクのチャタムハウスに勤務するデービッド・ルービン氏は第1次トランプ政権を振り返って「2017年と同じ映画を見ているようなものだ」と指摘。「最初の年はドル安の環境となり、新興国市場に適したマクロ経済環境となった」ものの、その後は新興国が困難な状況に追い込まれたと説明した。

 中国株とブラジル債券は今年に入ってから25%と大幅上昇し、ガーナの通貨は40%の急騰を示した。また、新興国市場企業債を購入する際に投資家が求めるプレミアム(スプレッド)は今週、2008年の世界金融危機以来の低水準となった。

ブラックロックやパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)など数兆ドル規模の資産運用会社がいずれも楽観的な見方を示す。一方、米銀行大手バンク・オブ・アメリカの調査部門は新興国資産の購入がほぼ懸念材料になるほどの「コンセンサス」取引になっているとし、ドルがさらに2.5─3%下落すればこの傾向はさらに強まる可能性があると言及した。

<回復は持続するのか>

全体として新興国市場は大きな転換点を迎えており、長引いていた低迷からの回復を目指している。

新型コロナウイルス禍や紛争、そして世界的な金利上昇を背景に、新興国市場債券に特化したファンドは過去6年間に純資金流入がなかった。JPモルガンのEM(新興国市場)債券戦略責任者、ジョニー・ゴールデン氏は現地通貨建てファンドは純資金流入があったのは2013年にさかのぼると推計している。

JPモルガンの今週の調査によると、新型コロナ禍後に一時的に回復した外国の新興国市場への直接投資は22年以降に減り続けている。

株式の投資家は、さらに厳しい状況に置かれている。MSCIのEM株式指数は07─08年の金融危機後に15%の上昇にとどまったのに対し、世界主要株式指数.MIWD00000PUSは150%超、ナスダック100指数.NDXは700%それぞれ上昇した。

欧州最大の資産運用会社、アムンディの新興国市場部門責任者イエラン・シズディコフ氏は、大手年金基金や政府系ファンドが米国から分散投資するために新興国市場の資産運用会社を指定する動きが加速していると指摘する。

シズディコフ氏は金利が低下しているブラジルやメキシコ、さらに困難の克服に取り組んでいるエジプトやトルコ、パキスタンについては引き続き楽観的な見方を示す一方、中東の湾岸地域は原油価格が再び下落を始めた場合には「逆張りトレード」に転じる可能性があるとの見方を示した。

新興国市場投資に特化したグラマシーの創業者で最高投資責任者(CIO)のロバート・ケーニグスバーガー氏は、現在の新興国市場は「FOMO(機会損失の恐怖)が非常に強い」とみる。

ベテランの株式投資家、マーク・モビウス氏は、米国が課す高関税によって各国が輸出主導の成長モデルを追求することが「不可能ではないにしても、より困難になる」と話す。

一方、JPモルガンは新興国債券に対して慎重姿勢を崩していない。同社のエコノミストらは、今年初めに2─3%だった米国の平均有効関税率が18─20%に上昇すると見込んでおり、米国が景気後退に陥る確率が40%あると見積もっている。

米国の景気後退は通常ならば世界的な売り圧力を引き起こし、新興国の国債市場の「スプレッド」を125─200ベーシスポイント(bp)拡大する。米市場も売り圧力を受けた場合には、23年半ば以降の回復が全て水泡に帰す可能性もある。

ゴールデン氏は「新興国市場の資産と他の大部分の金融市場には、景気後退が起きた時の明確な対応策がある」としながらも、「それは前向きなものではない」と指摘した。

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