Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 29日 ロイター] - 個人投資家はウォール街のパーティーにしばしば遅れて参加するが、そのころは上昇相場が出来上がっていて「スマートマネー(機関投資家)」が出口を探そうとしている。しかし、今回は様子が異なっているように思われる。
資金流入や調査データによると、個人投資家は遅れを取り戻そうとしているどころか、今回の米株式市場の急騰をけん引する主要な原動力となっており、S&P500種やナスダック総合指数がほぼ連日のように最高値を更新している。
米金融大手ゴールドマン・サックスのアナリストの推計によると、先週はS&P500種の取引フローに占める個人投資家の比率が12.63%に達した。これは今年2月以来の高水準で、最近の平均をかなり上回っている。個人投資家の参加比率がここ数年間で13%を超えることはまれだった。
英バークレイズの株式ストラテジストらは先週のリポートで、個人投資家が現在の上昇相場の「主な推進力」となっており、過去1か月で500億ドル以上が世界の株式市場に流入したと指摘している。個人投資家の株式投資に対する熱意は高まり続け、機関投資家の参加が「控えめ」にとどまっていると述べている。
また「第2・四半期決算に対する投資家心理の好転や堅調なマクロ経済指標、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ観測が相まって、なかなか解消されない関税の脅威や財政赤字を巡る懸念を上回り、個人投資家は再びリスク選好を高めているようだ」と述べた。
こうした楽観的な見方は、米モルガン・スタンレーが先週発表した最新の個人投資家四半期調査で裏付けられた。調査は回答者の62%が米国株に強気で、66%が米市場が今四半期末までに上値を追うと予想している。いずれも調査を2年半前に開始して以来最も高い水準だ。
<クリスピー・クリーム株を買い持ち>
個人投資家の活動が増えたのは歓迎すべき動向かもしれない。まず基本的に、市場における参加者層と民主化の拡大は歓迎すべきことだ。また、「ミーム株」ブームが市場に広く波及した2021年以降、個人投資家が十分に成熟したとみるアナリストもいる。
しかし、現在の個人投資家の取引は依然としてかなり投機的でしばしばオプション絡みのミーム株取引を含んでいる。今回の主な標的はドーナツチェーンのクリスピー・クリーム、アクションカメラメーカーのゴープロ、百貨店大手コールズのように大きく空売りされている銘柄だ。
実際、バンク・オブ・アメリカのアナリストによると、個人投資家に人気のある「ゼロ・デー・オプション」(24時間以内に満期を迎えるプション)が最近、S&P500種のオプション取引全体の60%以上を占めている。
上昇相場の期間が長くなれば長くなるほど、個人投資家が株価の大幅下落で打撃を受けるような大きな調整局面が生じる懸念も高まる。こうした懸念は決して根拠がないわけでないのだ。
米金融取引業規制機構(FINRA)の最新データによると、米国株の信用買い残高は初めて1兆ドルを突破した。これは個人投資家と機関投資家の両方の活動を示しているが、米JPモルガンのアナリストによれば、個人投資家が主に残高を積み上げている。
もちろん、投資家の信用買い残高はインフレや株価指数の上昇に伴って増加すると想定される。ただ、一部のアナリストは残高の増加を市場の過熱や過剰な活況の兆候とみなしている。
<規制緩和の動き>
さらに、個人投資家はやがて米政府から支援の手が差し伸べられる可能性がある。バンク・オブ・アメリカのアナリストが「金融規制政策の緩和」と称する方策が相次ぎ準備されており、個人投資家が株式やそのほかの流動性の低い市場で取引がしやすくなる。
たとえば、トランプ米政権は個人投資家が401(k)退職年金基金にプライベート・エクイティ(未公開株式)を組み入れることを認める大統領令を準備している。一部報道によると、FINRAは投機的な取引行為を制限するために設けられた「パターン・デートレーディング・ルール」について、証拠金残高の最低金額要件を現在の2万5000ドルから2000ドルに引き下げる規制緩和の提案を検討している。
もちろん、規制を緩和すればリスクが増大し投資家保護が低下する。しかし今のところ、個人投資家が市場を主導し、相場の上昇ぶりを楽しんでいるのだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)