Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 21日 ロイター] - トランプ米大統領のパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長に対するあからさまな攻撃に何か成果があるとすれば、中央銀行の独立性という問題が脚光を浴びるようになったことだろう。しかしここで疑問が生じる。「独立性」とは実のところ何を意味するのだろうか。
中銀の独立性は一般的に現代の金融市場における基本原則と見なされている。経済学者や投資家、政策立案者は、金融政策は近視眼的で気まぐれな政治的影響から切り離し、経済の長期的な安定と利益を目指して運営されるべきだとの考えでほぼ一致している。
しかし政策立案者と政治家の間の線引きを維持するのは、理論上は可能であっても、実際には極めて難しい。
詰まるところ、中銀は各国政府によって創設され、程度の差こそあれ政府の延長線上に存在する組織だ。その法的根拠、活動の枠組み、目的、そして主要な政策立案者は立法機関が決定している。
実際には中銀に完全な独立性が存在しないことの証左としては、世界金融危機や新型コロナウイルスのパンデミック期に各国の中銀と政府の間で密接な、しばしば協調的な対応が採られたことを挙げれば十分だろう。
<事実か法律か>
金融政策研究における「独立性」には主に2つの意味がある。
学術的な文脈では、しばしば「法律上の独立性(de jure independence)」、つまり法的・制度的な独立性と、「事実上の独立性(de facto independence)」、つまり運用上の独立性が区別される。重要なのは法律上の独立性があっても事実上の独立性が確保されているとは限らず、その逆もまた然りという点だ。
意外に思われるかもしれないが、米国は「法律上の独立性」が低い。FRBに関する法制度が1913年の設立以来、ほとんど変更されていないのが主な理由だ。
1990年代にアレックス・クキエルマン氏らが作成し、トリニティ・カレッジ・ダブリンのダビデ・ロメリ准教授がアップデートした「中央銀行独立性指数」によると、米国のスコアは0.61で欧州中央銀行(ECB)の0.90、中国人民銀行の0.66よりも低く、FRBは両行よりも制度上の独立性が低いと評価されている。この指数は独立性が完全にない場合が0、完全に独立している場合が1となっている。
しかし「事実上の独立性」という観点からすると、FRBはその制度設計、透明性、さらには議長による定期的な記者会見や議会での証言など説明責任の仕組みなどから、独立性のスコアが間違いなく中国人民銀行よりも高いと思われる。
FRBはパンデミック後、最初にインフレが急騰した際に利上げ要請に抵抗し、今は米国の通商政策が不透明なため利下げを急いでいない。こうした対応の是非には議論の余地があるが、いずれのケースもFRBの運用上の独立性を明確に示している。
<バナナ共和国>
中銀の独立性に対する脅威について専門家が語るとき、通常は「事実上の独立性)」への懸念を指している。
トランプ氏が過去半年間、パウエル議長が利下げを行わないとして激しい「口撃」を浴びせていることに、FRBウォッチャーが懸念を募らせているのはこのためだ。政治介入の線引きは曖昧だが、トランプ氏が一線を越えたのは間違いない。
イエレン前FRB議長は今月初めにザ・ニューヨーカー誌のインタビューで「トランプ氏の発言は、まるで財政赤字穴埋めのために紙幣を刷り始めようとしているバナナ共和国(政情不安定な小国)の国家元首の物言いだ」と述べた。
もちろん、たとえトランプ氏がパウエル氏をより従順な議長と交代させたとしても、それだけでFRBの独立性が完全に失われるわけではない。FRB議長は単独では金利を決定せず、連邦公開市場委員会(FOMC)において12票のうちの1票を有するだけだ。
とはいえ、議長の立場が「平等な者の中のトップ」であることは、メリーランド大学のトーマス・ドレクセル氏が最近の調査で明らかにしている。
ルーズベルト氏からオバマ氏に至る歴代米大統領と、FRB関係者との間で交わされた800件余りの個人的交流をドレクセル氏が分析したところ、92%が議長とのやりとりだった。
もちろん、全ての会談や電話が政治的圧力を意味するわけではない。また純粋に実務的な観点から言って、複数の理事ではなくトップと直接話すのは理にかなっている。
こうして考えると、FRBの独立性を損なう可能性がある最も重要な領域のひとつがトップの任命だ。2022年に発表され今年2月に改訂された学術論文「(In)dependent Central Banks”)」は1985年1月から2020年1月の期間に57カ国で行われた317件の中銀総裁の任命を分析し、中銀の権限と独立性が拡大するにつれて、それをコントロールする政治的インセンティブが強まっていると指摘した。「特に世界的にポピュリズムが台頭する時代には」こうした傾向が顕著だという。
従って多くの場合、中銀が政治的圧力に従わない力を持てば持つほど、政府の指導者は圧力をかけたくなる。そして、もしそれが世界的な潮流であるならば、トランプ氏はまさにその「最前線」に立っていると言えるだろう。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)