By Jamie McGeever
[フロリダ州オーランド 25日 ロイター] - 脱ドル化を巡る議論の多くは、株式や債券といった米国証券に対する外国からの投資が中心になっている。しかし、投資家は外国直接投資(FDI)の動向にも注意を払うべきだ。FDIはこれまで長期的に安定した資本とされていたが、警戒すべき兆候を示すかもしれないからだ。
FDIは一般的に外国の企業がしばしば工場や機械の購入、企業の支配権取得を通じて他国の企業の資産を取得したり買い増したりすることだ。価格変動が激しくなる可能性がある有価証券の売買と比べればより長期的な投資とみなされる。
トランプ米大統領は過去最高の外国投資を呼び込んだと主張している。ホワイトハウスは実際、ウェブサイトでトランプ政権の2期目が始まった以降の「対米新規投資の概要一覧」を掲載している。その総額は数兆ドルに達する。
一覧にはアラブ首長国連邦、カタール、日本、サウジアラビアが米国に対し4兆ドル超を投資するという誓約が含まれている。トランプ氏は先月の中東訪問中に、既に発表された事業と近く発表予定の事業を含めて世界各国から総額12─13兆ドルの投資を受け入れる見通しだと述べた。
こうした資金流入はそのうちに全体像が明らかになるかもしれない。しかし、24日に発表された公式統計によると、2025年第1・四半期のFDIは528億ドルに落ち込み、22年第4・四半期以来の低い水準になった。これは過去10年および20年の四半期平均を大きく下回っている。nL6N3SR14R
米商務省のデータもまた、25年第1・四半期の米国の経常収支の赤字が過去最大の4502億ドル、国内総生産(GDP)に対する比率が6%まで拡大しており、FDIの流入は経常赤字のわずか10%程度しか補っていない。
トランプ政権はこうした事態を懸念すべきだろうか。
<関税のゆがみ>
この問いに対する答えは簡単に言ってしまえば、おそらく懸念しなくていいし、少なくともまだ懸念しなくてもいい。
FDIの資金流入は株式や債券に対する投資資金の流入に比べて小さいため、FDIの減少は経常赤字を賄うという観点からは深刻な懸念材料でない。
一方で、外国人投資家もまた米国証券の購入も減らそうとすれば、ほかにどこからか流入する資金が経常赤字を手当てするために必要となるだろう。
さらに、25年第1・四半期の米国の経常収支は米国内の消費者や企業がトランプ氏の関税導入を見越して、関税が今年後半に始まる前に輸入を増やしたため大きくゆがめられている。
トランプ氏は「米国第一」政策によって米企業が生産拠点を国内に戻すためより多くの生産回帰を促し、ドル安が米企業の輸出競争力を高めるのに役立つと確信する。理論上はその後続いて活況となり、外国の企業や政府から投資を呼び込むだろう。
しかし、こうした力学は良くも悪くも両方向に作用する。
たとえば、シティグループによると、欧州連合(EU)は23年に米国のFDI全体の45%を占める最大の投資元だった。ドイツ主導の財政出動、米国の関税、脱ドル化を巡る懸念が重なれば、資金流入がいとも簡単に大きく減少する可能性があるだろう。
さらに、米国に対するFDIにとってのさらなるリスク要因には内国歳入法899条がある。これはトランプ氏が予算案で歳入計画の一部とする可能性があり、外国人の米国内所得に最大20%課税できるとういうもの。タックス・ファンデーションが5月公表した報告書は、899条は「米国に対するFDIの80%以上を占める国々からの対米投資に打撃を与える可能性がある」と指摘している。
シティグループによると、米国は世界最大のFDI受け入れ国であり、世界全体のFDIに占める比率が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の15%から23年に25%に高まった。米経済は世界最大であり、発明と先端技術、人工知能(AI)、収益性の高い繁栄の拠点となっている。
こうした状況は恒常的にFDIに寄与すると考えられるものの、新たな環境でこれまでと同様に投資を呼び込めるかどうかは分からない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)