Gabriel Rubin
[ワシントン 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 7月に入ってトランプ米政権は経済戦略に幾つかの柱を据えた。主要貿易相手に15%の基本関税を課し、法人税と所得税の枠組みを取り払うというものだ。
今年これまでに得た輸入関税収入は1000億ドル超と過去数十年で目にしたことがないほどの規模になった。ただ問題は、トランプ政権が4兆ドルの減税を含めた政策実現のため、この収入よりはるかに多くの金額を支出してしまう点にある。財政赤字の大きさも考えると、その穴埋めにもっと関税を使いたくなるだろう。
イェール大学予算研究所によると、平均実効関税率が15.6%だった6月の関税収入は270億ドルに達した。ここ数日で15%を基本関税とする日本や欧州連合(EU)との合意が発表され、中国や個別品目を対象とするより高い税率も考慮に入れれば、平均関税率はさらに上がると想定するのが妥当だ。
これらの水準が維持されるなら、年間の関税収入が3000億ドルに達するというベセント財務長官の見積もり通りになる。ただトランプ大統領は一段と踏み込み、関税は連邦所得税の代わりになり得ると豪語している。ラトニック商務長官は多少表現を和らげ、年収15万ドル以下の個人への所得課税を免除すると述べた。
現時点でそれは風呂敷の広げ過ぎと言える。財務省のデータに基づくと、昨年の連邦所得税収は2兆4000億ドル、このうち5650億ドルが所得分布下位90%からのものだった。
しかし、収支の差は拡大の一途だろう。関税は事実上、輸入品の消費に対する税金で、多くの消費者や製造業者は米国製品購入ないし米国での現地生産を通じて課税を回避しようとする。輸入品を国産品で代替できない分野では、単に需要が減退し、経済活動が落ち込むだけかもしれない。専門家の一般的な試算では、1ドルの関税収入を得ると所得・給与税収が0.25ドル低下するという。
トランプ政権が仕掛けた貿易戦争の全体的な目的は表面上、国内生産の奨励かもしれないが、追加の収入源確保という側面が実は何よりも重要な意味を持つ。
議会予算局(CBO)が試算したところ、トランプ氏が今月署名した税制・歳出法に盛り込まれた個人と企業向けの減税が主な要因となって、連邦債務は向こう10年で3兆ドルも増える。その減税措置撤回は、与党共和党にとって全く選択肢に入らないし、野党民主党もチップ課税免除などの政策には同意している。
収入面に目を向ければ、滞納されている税金の徴収さえ難しさが増している。内国歳入庁(IRS)は「税のギャップ(本来徴収すべき税額と実際の税収額の差)」について2022年時点で6000億ドルと算定していた。これは徴税執行部門を強化すれば対応可能なのだが、逆にトランプ政権はIRSに配分する予算を50%減らすと提案している。厳しい財政状況という現実を突き付けられても、再び関税に頼る以外に打てる手は乏しい。
●背景となるニュース
*米国の今年これまでの関税収入は1000億ドルを突破した。以前約2%だった平均関税率が大きく上昇したためだ。nL4N3T901D
*ラトニック商務長官は、関税収入が最終的には年収15万ドル以下の個人に対する所得課税の税収の代わりになり得ると述べた。昨年の連邦所得税収は2兆4000億ドル。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)