Katrina Hamlin
[香港 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領による自動車関税政策の急激な方針転換には誰もが「車酔い」した。最新の通商合意では日本から米国に輸出する自動車への関税率が累計27.5%から15%まで引き下げられることになり、米国の現地生産向け投資が少ないメーカーは一息つけそうだ。しかしこの安堵感は長続きしないかもしれない。
トランプ氏はそもそも、ゼネラル・モーターズ(GM)GM.N、フォード・モーターF.N、ステランティスSTLAM.MIの米自動車ブランド「デトロイト・スリー」の支援を目指していたが、3社は今回の合意を「米国の労働者と産業にとって不利なディールだ」と非難した。nL6N3TK04C
この合意で最も大きな恩恵を受けるのは三菱自動車工業7211.Tかもしれない。シティの推計によると、三菱は2024年に米国で販売した自動車の約4分の3が日本国内製だった。同社はアジア以外に大規模な生産拠点を持たず、今回の合意前には苦しい立場に追い込まれたと見られていた。一方、米国向けの約半分を日本で生産するマツダ7261.TとSUBARU(スバル)7270.Tも23日に株価が15%余り急騰した。
トランプ氏の方針転換が意外な理由は他にもある。トランプ氏は2020年に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に署名し、3カ国間でほぼ無関税貿易を続けることを認めた。米国は国内主要自動車メーカーにとって最大の単一市場であるだけでなく、トヨタ自動車7203.T、ホンダ7267.T、日産自動車7201.T,にとっても最大の市場であり、これらの企業はUSMCAを活用するためにこの地域全体に工場を持っている。しかしメキシコとカナダで製造された車両は米国に輸出する際に25%の関税が課されている。
一部のメーカーは急な方向転換にも耐えられる。例えばトヨタは3月末までの12カ月間の米国での販売台数が230万台、北米での生産台数は210万台に上るが、生産を現地工場だけに頼っているわけではない。シティによると、実際には2024年は米国での販売の24%が日本からの輸入車だった。世界最大の自動車メーカーであるトヨタは利益率もホンダや日産より高く、直近の会計年度の営業利益率は約10%に達しており、関税引き上げに伴うコスト増の吸収がずっと容易だ。
今後も紆余曲折があるだろう。ラトニック米商務長官は20日、トランプ氏は「必ず」USMCAについて再交渉すると発言した。また日米の自動車メーカーは、韓国が現代自動車000270.KSや起亜自動車のために関税軽減を勝ち取れるかどうかを注視している。コックス・オートモーティブによると、両社は今年上半期に米市場のシェアが10%以上に達した。ムーディーズのデータによると、現代グループの現地生産能力は昨年の米国内での販売分の40%にとどまっている。両社には今のところ25%の関税が課されており、現代自動車は24日、この関税によって6億ドル強のコストが発生したと発表した。
長期的には、自動車メーカーは米国内への投資を増やすことが最も単純な解決策だと判断するかもしれない。トヨタや現代など複数のメーカーが既にその方向へと動き始めている。しかし生産拡大には数年を要し、その間、自動車メーカーと投資家は「むち打ち症」に悩まされることになりそうだ。
●背景となるニュース
*日米両国が23日に合意した貿易協定によると、日本から米国に輸出する自動車に適用される関税率は累計27.5%から15%に引き下げられる。nL6N3TJ0XL
発表を受けて同日の株式市場ではトヨタ自動車や三菱自動車など日本の自動車メーカーの株価が軒並み大幅上昇した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)