Robert Cyran
[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 人工知能(AI)競争の勝敗を決めるのは資金力だ。巨大IT企業はしばしば、チャットボットを駆動させる半導体だらけのデータセンターへの巨額投資を喧伝(けんでん)する。メタ・プラットフォームズMETA.Oだけでも今年、600億ドル(約8兆8200億円)の設備投資を計画している。しかし研究開発予算も500億ドル超と負けておらず、設備投資と同じペースで膨らみ続けている。同社は限られた優秀な研究者を獲得するために9桁の給与を提示しており、研究開発費のスパイラル的な膨張は避けられないようだ。
主要なAI人材を巡る全面戦争はすでに始まっている。オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)によると、メタは優秀な幹部社員に1億ドルのボーナスを提示した。そして新興企業は競合他社に転職した社員を数週間後に再雇用し、企業は他社の人材を引き抜く目的で他社に投資するといったありさまだ。
半導体や銅と同じくらい、人間に焦点を当てることは理にかなっている。AIにより大きな計算能力、データ、エネルギーを投入することは、着実な進歩をもたらしてきた。しかし、まったく新しい手法、例えばチャットボットに回答を熟考する時間を与えるといったテクニックを採用することで、効率性と能力が劇的に向上することもある。中国のディープシークは、AIの訓練に要する計算時間を他の最先端モデルの10分の1に短縮する革新的手法を切り開き、ウォール街を震撼(しんかん)させた。
人間並みの知能を達成することで約束される莫大な富を考えれば、研究者に巨額を投じることは、非常に高額な宝くじを買うようなものだ。ハイテク企業と、それを支援するベンチャーキャピタリストらは、過去にも同様の賭けに勝ってきた。最終的に得られる富が過去よりさらに不透明で、競争も激化している以上、過大な報酬を支払うインセンティブは巨大になる。
結局のところ、前代未聞の高額報酬は優秀な学生を引き付けるだろうが、そうした人材の供給は急速には拡大しない。過酷な訓練には時間がかかり、革新的な洞察はめったに得られないものだ。
企業の研究開発費データを見ると、こうした状況が確認できる。米企業は一般に、研究者の給与、株式報酬、新製品開発のための研究所運営費を、発生した年度に計上しなければならない。
この数字には確かに、給与以外の運営費も含まれている。また、企業の研究開発費を直接比較するのは難しい。例えばマイクロソフトはオープンAIとの提携を通じて、一部の研究を実質的に外部委託している。既存事業にも依然として投資が必要だ。とは言え、研究開発費が増えているタイミングと企業の声明を併せて考えれば、増加の大部分がAIに関連していることが分かる。
例えば、メタは第4・四半期の決算発表後の電話会議で、新規採用の90%を研究開発分野が占めたと説明した。これに先立ちマーク・ザッカーバーグCEOは、同社のAI開発と野望を興奮気味に語っていた。
アマゾン・ドット・コムのアンディ・ジャシーCEOは書簡で、同社は1000種類の生成AIサービスとアプリケーションを開発中または構築済みだと述べた。そしてオープンAIは猛烈な勢いで成長している。企業が技術的優位性を争う競争を続ける限り、賭け金は高くなる一方だろう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)