Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 23日 ロイター] - トランプ米大統領は今年5月、米小売業大手ウォルマートWMT.Nを名指しし、関税コストを消費者への値上げで転嫁せずに自社で「吸収しろ」と要求した。米企業はこのメッセージに耳を傾けた。
これまでのところ、トランプ氏が打ち出した関税措置のコストは米企業が背負い、消費者にはほとんどしわ寄せが及んでいないというのがエコノミストらの見方だ。しかし、今後数カ月でかなりの負担が消費者に転嫁されるとの予想が大勢だ。
具体的にどの程度になるかはまだ分からない。だが、米経済活動の約7割を個人消費が占める以上、輸入品の販売価格の変化は、米国の経済成長率と物価上昇率を決定的に左右しかねない。
米国は依然として中国、インドとの間で最終的な関税率の合意に達しておらず、半導体など幾つかの重要品目の関税率も決まっていない。それでもトランプ氏が4月2日に「相互関税」を発表してから約半年を経て、不透明感は払しょくされてきた。
米国の平均関税実効率は15─20%の範囲に落ち着きそうだ。これは昨年12月時点の2.5%から大幅に上昇する。エール大学予算研究所の最新推計では17.4%となっている。
今のところ実効関税率は10─12%付近で、大半は顧客への転嫁をためらう米企業が負担している。前倒し輸入に伴う各種の歪みや、関税率や関税実施を巡る混乱があまりにも大きく、価格決定行動において様子見をするのが妥当だったという面もある。
<負担割合が劇的変化か>
関税は品目や業界によって非常に大きなばらつきがある。オックスフォード・エコノミクスの副チーフ米国エコノミスト、マイケル・ピアース氏は、スポーツ用品と家具では消費者が関税の大部分を負担している半面、自動車と衣料品は国内と外国の企業が多くを背負っていると指摘する。
とはいえ、全体として考えると消費者には依然として本格的な圧迫感はない。BNPパリバのエコノミストチームの計算では、足元の関税負担割合は米企業が64%、外国の輸出企業が20%弱で、米消費者は17%に過ぎない。
BNPパリバの分析モデルに従うと、数カ月以内にはこの負担割合が劇的に変わり、消費者は63%、米企業はわずか1%になることが分かる。アトランタ地区連銀の最近のブログで、平均的に米企業は需要を損なわずに10%のコスト増大の半分強を消費者に転嫁できるとの認識を持っていると結論付けた。
では、消費者は値上げされても支払いに応じるだろうか。
米国の今年前半の成長率は昨年の半分程度にとどまり、雇用の伸びはなくなりつつあり、米連邦準備理事会(FRB) は利下げを再開した。一方でとりわけ物価上昇率がなお高止まりしている点を踏まえると、各企業は大幅な値上げで顧客に負担を転嫁することには消極的になるだろう。
素直に認める向きは乏しいものの、ここに考慮すべきもう1つの要素がある。つまり多くの企業は、トランプ政権の怒りを買うのを恐れ、大幅な値上げはしないとみられる。
オックスフォード・エコノミクスのピアース氏は「米経済にかかる関税の負担はじわじわと忍び寄ってきている。(消費者への)最大の影響はまだ顕在化していないが近々、コストの3分の2弱は消費者に転嫁されるリスクがある」と警告した。
<政府の増収に貢献>
トランプ政権高官、特に財務省は関税収入が増加を続ける一方のため、最終的に誰が負担するかはそれほど気にしないかもしれない。
エール大予算研究所の試算に基づくと、新たな関税措置が8月までに生み出した収入は880億ドル、8月だけでも約230億ドルに上った。
アポロのチーフエコノミスト、トーステン・スロク氏の試算によると、米政府が現在徴収している関税は年率およそ3500億ドルと、年間の所得税納付額の18%に相当する。
向こう10年で関税は米政府に差し引き2兆ドルの収入をもたらすというのがエール大学予算研究所の予想だ。オックスフォード・エコノミクスによると、それによって財政赤字は約2兆6000億ドルも削減できる。
米国の財政見通しはそれほど良好でないので、関税収入が維持される期間が長くなるほど、将来の政治家は財源確保の面で打ち切りにくくなるだろう。
もっとも、それは何年の先の話だ。より間近なところで、今まで企業が大半を自ら吸収してきた関税コストを、消費者が積極的に負担しようとするのかどうかが判明するのではないか。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)