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COLUMN-〔BREAKINGVIEWS〕中国はまだ世界の覇権争いに勝利していない

ロイターSep 16, 2025 5:18 AM

Hugo Dixon

- 今月続いた一連の華やかな光景は、超大国争いで中国が米国にほぼ勝利したかのような印象を与えたかもしれない。

まず、インドのモディ首相とロシアのプーチン大統領が上海協力機構(SCO)首脳会議で、習近平国家主席に会うために手を取り合って歩いた。続いて、習氏は北京で実施された軍事パレードでプーチン大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記を両脇に従え、中国の軍事力を誇示した。

その一方、トランプ米大統領は友好国や同盟国を威圧することで米国の力を大きく低下させている。そうした事態のために、米国の覇権の源泉の一部である比類なき同盟のネットワークやソフトパワーは弱体化している。

だが、まだ勝負はついていない。米国は膨大な力を有しており、トランプ氏が2029年に任期を終えるまでにこうした力を全て浪費できはしないだろう。他方で中国にも弱点はあり、その統治モデルは他国にとって魅力を欠く。欧州連合(EU)のような他の勢力は、弱いとしても、まだ影響力を発揮する道を探し出せるかもしれない。

<米国の力の源泉>

米国の力は6つの柱に基づいている。軍事力、同盟、活力ある経済、技術革新、世界の基軸通貨としてのドルの役割、そして「米国モデル」の魅力だ。

中国は数十年間にわたってこうした優位性を少しずつ切り崩し、軍事的、経済的、技術的な格差を縮めてきた。中国はまた世界最大の貿易国であり、重要物資を支配し、複数国のインフラ整備を支援する1兆ドルを超える「一帯一路」構想を掲げ、影響力を拡大してきた。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、習氏はプーチン氏とますます緊密な関係を築き、ロシアの戦争遂行努力を支援してきた。両首脳は米国の覇権を打破したいと望んでいる点で一致している。

一方、米国はトランプ氏が1月にホワイトハウスに復帰して以降、自ら招いた損害で痛手を受けている。トランプ氏の関税政策は米経済を景気後退に追い込みかねず、減税策はすでに高水準にある連邦政府の債務をさらに数兆ドル拡大させるだろう。さらに、トランプ氏のこうした政策はドルの地位を損なっている。

トランプ氏の貿易戦争は、カナダや欧州各国のような同盟国からも反感を買った。関税政策はインドを中国に接近させた一方で、トランプ政権が韓国人労働者約300人を大量に拘束したために韓国との関係は緊張し、米国に大規模投資を計画していた他国企業は動揺している。

ウクライナ支援を巡るトランプ氏の態度は一貫せず、ウクライナの安全保障を自国の安全保障にとって欠かせないとみなす欧州の同盟国に不安を抱かせた。トランプ氏の台湾を巡る発言は曖昧で、同氏が中国の台湾侵攻に反対しているのかどうか疑念が生じている。

加えて、トランプ氏が国内で権威主義的な政策を取ろうとすればするほど、米国が「民主主義の擁護者」だと主張するのがいっそう難しくなる。トランプ政権が気候変動に対する闘いを放棄し、対外援助を削減し、ガザでイスラエルの戦争を支援している状況に、世界の大半の国々は失望している。

トランプ氏に対しての不満は多いものの、それでも米国は国内総生産(GDP)が29兆ドルと、中国の19兆ドルをはるかに上回る。米国は軍事的、技術的に中国に対して依然として優位な立場にある。欧州や東アジアの同盟国は不満を抱いているが、ロシアや中国に脅威を感じている限り、米国を見限ることはないだろう。

<中国のもろさ>

中国の進撃には同時に、深刻な弱点が隠されている。中国は長い間、収益をほとんどあるいは全く生まない数々の事業に投資し経済成長を支えてきた。こうした結果、債務規模は膨張。国際決済銀行(BIS)によると、GDPに対する債務比率は08年に113%だったものが、24年には287%に達した。一部の借入金は今や不良債権化し経済が減速している。

中国はまた輸出依存体質にどっぷりつかったままだ。米国への依存度は低下したものの、他国に対する輸出を増やし、輸出先では電気自動車(EV)や太陽光発電パネルのような製品が市場で投げ売りされるのではないかと懸念されている。

深刻な人口構造の変化にも直面している。世界銀行の予測では中国の人口は50年までに12%減少するが、米国は9%増加する見通しだ。習氏の後継者についても不確実性が大きい。「よく働き、消費せず、共産党の指令に従う」という中国モデルは、他国の国民にとって魅力に乏しい。

内政不干渉を唱える習氏の姿勢は確かに、他の国の独裁者にとって魅力的だ。だが、そうした独裁者たちですら中国への過度な依存には警戒している。

世界最多の人口と第5位の経済規模を有するインドは最も重要な事例だ。トランプ氏がインドに懲罰的関税を課した後、モディ首相は習氏との友情を誇示した。しかし、インドと中国には長年にわたる国境紛争の歴史がある。モディ氏は習氏の陣営に入ることを望まないだろう。インドと米国の両首脳は先週、交流サイト(SNS)に投稿し合意に取り組んでいると示唆していた。

<中堅勢力の時か>

では、米国や中国のいずれにも依存しない、いわゆる「中堅勢力」が今こそ影響力を発揮できる時となり得るのだろうか。こうした国々は確かに、超大国抜きで連携する機会があるが、安全保障が脅かされている国々にとって容易ではない。

例えばEUはウクライナをロシアに負けさせるわけにはいかない。そのため、米国が少なくとも一定の支援を続けてくれるよう切望している。こうした事情から、EUは一方的な通商協定を受け入れ、防衛費をほぼ2倍に増やす約束を取り付けた。

ウクライナ戦争は実際、世界の勢力均衡を大きく左右するだろう。ロシアが勝利すれば中国の勝ちであり、米国の負けとなる。ウクライナが敗北を免れれば、欧州は力を取り戻すだろう。防衛力を強化すれば、米国から一定の自立性を獲得する可能性もある。

「パクス・アメリカーナ」は衰退しつつあるかもしれない。しかし、未来が「パクス・シニカ(中国)」になるとも限らない。


(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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