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〔アングル〕トランプ氏、貿易戦争の「勝利」は本物か 投資合意の実行など不透明

ロイターAug 8, 2025 3:20 AM

Andrea Shalal

- トランプ米大統領は一見、貿易戦争に勝利しつつあるかのように見える。主要な貿易相手国を意のままに従わせ、ほぼ全ての輸入品に2桁台の関税率を課して米国の貿易赤字を縮小し、毎月数百億ドルもの貴重な現金を国庫に稼ぎ入れる――。

トランプ氏の各国に対する「相互関税」は7日に発動された。しかし重要な課題が残っている。貿易相手国が投資や物品調達の約束を果たすのか、関税がどの程度インフレを押し上げ、需要や成長を阻害するのか、そして多くの場当たり的な関税措置を裁判所が認めるかどうかなどだ。

米国の実効関税率はトランプ氏の第2次政権発足時に約2.5%だったが、その後は推計17ー19%に跳ね上がった。米シンクタンクのアトランティック・カウンシルは7日の新税率発効によって実効関税率は20%に近づき、過去100年で最高になると見込んでいる。

貿易相手国の多くが報復関税を発動していないため、報復合戦が勃発して世界経済への打撃が深刻化する事態は避けられている。5日発表の6月の米貿易収支統計は赤字が前月比16%縮小し、対中貿易赤字は21年以上ぶりの低水準となった。

米国の消費は予想以上の底堅さを示しているが、最近の一部統計からトランプ関税がすでに雇用や成長、インフレに影響を及ぼし始めていることが読み取れる。

アトランティック・カウンシルで経済調査部門を率いるジョシュ・リプスキー氏は「問題は勝利が何を意味するのかだ。トランプ氏は世界中の国・地域に対して関税を引き上げつつ、報復的な貿易戦争を回避しており、それは本人の想定以上に容易だった。しかし、より重要なのはこうした政策が米経済にどのような影響を及ぼすかだ」と述べた。

保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の経済政策調査部門を統括するマイケル・ストレイン氏は、トランプ氏の地政学的勝利は空疎なものとなる可能性があると指摘。「地政学的な観点から言えば、トランプ氏が諸外国から多くの譲歩を引き出しているのは明白だが、経済的な観点から言えば貿易戦争に勝利してはいない」と見ている。

「われわれが目にしているのは、他国の指導者と比べ、トランプ氏は自国民に経済的損害を与えるのをいとわないという事実だ。私の考えではこれは敗北だ」

トランプ第1次政権でホワイトハウスの通商担当顧問を務め、現在はエイキン・ガンプ・ストラウス・ハウアー&フェルド法律事務所のパートナーであるケリー・アン・ショー氏は、力強さを維持する米経済と過去最高水準に近い株価が「攻めの関税戦略を支えている」としつつ、トランプ氏の関税、減税、規制緩和、さらにはエネルギー生産を促進する政策は効果が現れるまで時間を要すると指摘。「こうした政策の評価は歴史にゆだねられることになるだろうが、私が生きてきた中で世界の貿易システムに大きな変化をもたらした初めての大統領だ」と話した。

  <これまでに8件の合意>

トランプ氏はこれまでに欧州連合(EU)、日本、英国、韓国、ベトナム、インドネシア、パキスタン、フィリピンと計8件の枠組み合意を結び、これらの国・地域の輸出品に対して10-20%の関税を課している。

これは政権が4月にぶち上げた「90日で90件の合意」に遠く及ばないが、米国の貿易全体の約40%を占める。現在30%の関税を課し、12日が交渉期限となっている中国を加えれば、この比率は54%近くに達する。

合意はさて置き、トランプ氏の関税政策は多くが二転三転してきた。

6日には、ロシアからの原油輸入を理由にインド向けの新関税率を25%から50%へと大幅に引き上げ、インドへの圧力を強めた。ブラジルも50%の税率を適用される見込みだが、これはトランプ氏が盟友であるブラジルのボルソナロ前大統領の起訴に不満を持っているためだ。また、以前トランプ氏から称賛されていたスイスはトランプ氏との交渉が不調で、39%の関税に直面している。

トランプ第1次政権とバイデン政権に関与した通商弁護士のライアン・マイアラス氏は、これまで発表された合意は、何十年も米国の政策担当者を悩ませてきた「長年にわたる、政治的な根深い貿易問題」には対処しておらず、そこに到達するには「数カ月、それどころか数年かかるだろう」と予想した。また、日本の5500億ドル、EUの6000億ドルといった大規模な対米投資合意について、実行のための具体的なメカニズムが欠けているとも指摘した。

   <約束とリスク>

トランプ氏が先月スコットランドを訪問した際に行われたサプライズ会談で、ほぼ見返り無しに15%の関税に合意したフォンデアライエン欧州委員長は批判を受けた。

互いに関税をゼロとすることを求めていたEU域内のワイン生産者や農家は落胆。フランス全国酪農業連盟(FNIL)のフランソワグザビエ・ユアール会長は、15%は以前にちらつかされていた30%よりはましだが、それでも酪農家の損失は数百万ユーロに上ると述べた。

一方、欧州の専門家によると、フォンデアライエン氏の動きによって関税のさらなる引き上げが回避され、トランプ氏との緊張が和らぎ、半導体、医薬品、自動車への潜在的な追加関税も防げたのは事実だ。またフォンデアライエン氏は、米国の戦略物資7500億ドル相当の購入と6000億ドル超の投資という象徴的な意味合いの強い約束を行った。約束の履行はEU加盟国や企業に委ねられ、欧州委が強制することはできないと専門家は指摘している。

米政府関係者は、EUや日本、その他の国が約束を守っていないとトランプ氏が判断すれば、より高い関税を再度課すことが可能だと主張している。しかし約束の履行状況をどう見極めるのかは不透明だ。

過去を振り返っても、中国はトランプ第1次政権下の「第1段階」米中貿易合意で受け入れた控えめな調達義務すら実行せず、その後のバイデン政権が中国の責任を追及するのは難しかった。

ショー氏は「いずれも未検証だ。EU、日本、韓国は合意をどのように実行に移すのかを考えなければならない。これには政府調達に限らず、民間セクターを動かして投資や融資支援、特定の商品の購入に向かわせることも含まれる」と述べた。

トランプ氏が一方的に導入した関税の根拠そのものも訴訟に直面している。トランプ氏の法務チームは、敵国への制裁や資産凍結のために使われてきた1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)の解釈を変更し、今回の関税措置を正当化するのに利用したことを巡り、控訴審の口頭弁論で厳しい追及を受けた。判決はいつ出てもおかしくなく、最終的には最高裁の判断を待つことになりそうだ。

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