David Milliken
[ロンドン 4日 ロイター] - 英国では6月の物価上昇率がイングランド銀行(BOE、英中央銀行)の目標の2倍に近づく伸びだった。ただBOEは7日の金融政策委員会(MPC)で政策金利を4.25%から4%に引き下げることを決定し、年内にもう1回利下げするとの予想が大勢だ。
一方で今後基調的な物価圧力がどこまで和らぐか、あるいは追加利下げをしなければ、労働市場の減速とさえない経済成長が中期的に物価上昇率を目標から下振れさせるのかどうかについて、政策担当者の見解は分かれている。
7日のMPCで物価情勢の論点となりそうな要素は次の通り。
◎欧米との比較
ロシアが2022年にウクライナ侵攻を開始した後、英国の物価上昇率は米国ないしユーロ圏以上に跳ね上がり、一時11.1%に達した。英国は暖房や発電で天然ガスへの依存度が大きいことが一因だった。
23年に入ると物価上昇は急激に鈍化し、昨年9月は1.7%を記録したが、その後は再び米国ないしユーロ圏を上回る伸びとなった。BOEが今年5月公表した見通しでは、物価上昇率が目標に収まるのは27年初め以降とされる。
今年6月の物価上昇率は3.6%と昨年1月以来の大幅な伸びで、一部エコノミストは間もなく4%になると予想する。
対照的に欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏の物価上昇率が2%弱で安定すると想定している。
◎インフレ期待の高まり
大半のBOE当局者は、企業と家計に対するインフレ期待調査を、将来の物価上昇や賃金需要、自らの信頼性を占う重要な手掛かりと位置づけている。
これらのインフレ期待は過去1年で上昇。シティとユーガブの合同調査では長期のインフレ期待が22年終盤以来の高さになった。当時は総合ベースの物価上昇率が2桁の伸びだった。BOEによる独自調査のインフレ期待は19年以来の高水準にある。
しかし一部の当局者は、こうした調査は将来の動きの予測ではなく最近の物価動向に対する反応と受け止め、それほど重視していない。
◎根強い国内の物価圧力
総合ベースの物価上昇率は23年になって急速に鈍化したが、より長期的な国内の物価圧力の指標として利用される2つの項目はあまり減速しなかった。
その2つとは、増大する労働コストの影響を大きく受けているサービス価格と、変動の大きい分野を除いたコア消費者物価指数(CPI)で、いずれも総合ベースの物価上昇率より高止まりしている。
人々のインフレ期待、特に貧困層にとって注目度が高い食品・飲料価格も急速に上昇し始めた。
◎賃金上昇率は鈍化
民間部門の基本給の伸びは前年比5%弱と、2年前のピーク時(8%強)から鈍化している。ただコロナ禍前をなお2ポイントほど上回り、ほとんどの政策担当者が2%の物価上昇率と整合的と考えている約3%よりも高い。
BOEと、BOEが調査した経営者のいずれも、賃金上昇率は向こう18カ月でさらに減速して3%に向かうと予想し、インフレを下押す形になっている。
それでも過去1年間の賃金上昇率の鈍化は一本調子とは言えず、失業率上昇と求人件数の減少は、必ずしも賃金上昇率がBOEの想定通りに下振れることを保証するものではない。
◎コスト増大示すPMI
S&Pグローバルが算出する7月の購買担当者景況指数(PMI)からは、英企業が「力強いペース」で値上げに動いたことが読み取れる。
22年ほどではないものの、値上げ幅はまだコロナ禍前よりも大きい。過去1年でサービス業と製造業のコストは双方とも急速に増大。これらが消費者に転嫁されれば、物価上昇圧力になるだろう。