Gabriel Rubin
[ワシントン 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はかつてインフレを「一過性」だと見なして看過し、その後、新型コロナ禍の影響によるスパイラル的な物価上昇に直面した経験がある。現在、FRBに利下げを求める政治圧力が強まっているが、パウエル氏は当時の二の舞を避けたいはずだ。
トランプ米大統領は25日、FRBの次期議長候補は「3、4人」いると述べてパウエル氏への攻撃を再開した。貿易を巡る不透明感を高め、減税によって財政赤字を3兆ドル膨らませる上に、FRBとけんかするとは、投資家にとって三重のショックだ。これらがもたらす影響は、新型コロナ禍の余波以上に長引くかもしれない。
与党共和党議員らも今週トランプ氏の攻撃に加勢し、議会公聴会で証言したパウエル氏に利下げを迫った。パウエル氏は4.5%という現在の政策金利水準が景気抑制的であると認めているが、同時に利下げ圧力に抵抗すべき理由も十分にある。エコノミストは高関税と財政拡張によってインフレ率が上昇するとの予想でほぼ一致している。
共和党は、パウエル氏が政治的な姿勢で金融政策を運営していると非難する。だが消費者のインフレ期待が急上昇している現在、FRBの政治からの独立性は最も重要だ。
ただ、パウエル議長が自らの姿勢を貫くのは次第に難しくなっている。トランプ氏が任命したFRBのボウマン副議長とウォラー理事が利下げを支持するようになったからだ。2人は6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きに賛成していた。金利先物は次の利下げが9月に実施されることを織り込んでおり、7月利下げの可能性は低そうだが、7月会合の投票結果はこれまでのような全会一致にならないかもしれない。
トランプ氏と共和党議員らは、来年11月の中間選挙前に景気が減速する初期兆候を見て圧力を強め続ける可能性がある。ただパウエル氏の使命は、過去の過ちを避けてFRBの正当性を維持し、来年5月の退任時に後継者へと安定した環境を引き継ぐことだ。
皮肉なことに、トランプ氏は事態を静観した方が自らにとって望ましい結果を得られるかもしれない。ワシントンで次期FRB議長候補として名前が上がっているのはウォーシュ元理事、ウォラー理事、ベセント財務長官、国家経済会議(NEC)のハセット委員長で、いずれも程度の差はあれ、容易に承認を得られる無難な候補者だ。
次期議長が就任するころには、うまくいけば関税による最初の打撃は過ぎ去り、議長が自由に采配を振るうことのできる状況になっているかもしれない。だがトランプ氏は、パウエル議長の立場を弱めることで、後任の仕事をかえって難しくしている。FRBが政治に左右されているという印象が生まれてしまうからだ。
トランプ氏がパウエル氏への攻撃を再開したことに反応し、ドルは下落した。投資家は既に、大統領による金融政策への影響行使を予見しているということだ。トランプ氏はFRB議長の首をすげ替えたい一心のようだが、市場はトランプ氏にとって耳の痛いメッセージを発している。
●背景となるニュース
*トランプ米大統領は25日、パウエルFRB議長を「ひどい」と評し、後任の検討に入っていると付け加えた。パウエル氏の任期は来年5月まで。nL6N3SS1ZY
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)