By Jamie McGeever
[オーランド(米フロリダ州) 23日 ロイター] - 米ドルは上半期として1988年以来最も低調な運用実績にとどまろうとしており、ドル売りがあらゆる投資家から、あらゆる場所から、あらゆる資産クラスで出ているようにみえる。
それはある程度は事実だ。世界中の投資家は徐々にドル建て資産の投資比率を引き下げているようで、ドルが主要通貨バスケットに対して3年半ぶりの安値まで下落した。しかし、ドル売りの圧力が他の場所以上に高まっている場所もある。
米国外の投資家が当然ながら売りの大半に関与しており、株式関連の売り圧力は主に欧州の投資家から、債券関連の売りは主にアジアから生じている。
バンク・オブ・アメリカの外国為替戦略チームによると、欧州の年金基金や保険会社などの機関投資家といった「リアルマネー」投資家が2025年第2・四半期のドル売りの主な原動力となっており、ほんの数週間でドルの保有量を22年以来の最低水準まで減らした。
しかし、事情はそれほど単純でないかもしれない。欧州の投資家は最近、ドルのヘッジ比率を高めている状況が注目されている。他方で調査によると、過去数カ月でドルの1日当たりの平均的な下落の多くはアジアの取引時間中に起きており、アジアの米国債保有者もドルヘッジを増やしている可能性を示唆している。
となると、ドルにとってより大きな重荷となっているのはどちらだろうか。株式主導の地理的分散か、債券売却か。そして、売りの主な発生源は欧州か、アジアか。
<過剰な投資比率>
一見すると、米国株の外国人保有額が米国債よりも名目上大きいため、株式に原因があると指摘する人がいるかもしれない。しかし、割合で見ると、外国人投資家の米国債市場に対する影響の方が大きい。
国際決済銀行(BIS)によると、外国人は米国証券を31兆ドル以上保有しており、そのうち17・6兆ドルが株式、13.6兆ドルが債券だ。これは米国株式市場全体の約18%、米国の政府系・社債市場の21%、米国債市場の約3分の1に相当する。
UBSのアナリストによると、ユーロ圏の投資家は外国人保有の米国株の25%を占めており、米国株をここ数年間で大量に購入してきた。こうした事情から米株式市場が欧州市場やアジア市場よりも低調な運用実績を続ければ、ドルが特に弱くなるとみている。
さらに詳細に分析すると、外国人投資家のドル建て資産のうち、ヘッジされていない純資産は合計23.5兆ドル。このうちG10諸国の投資家が13.4兆ドルを保有しており、株式が9.3兆ドル、債券が4.1兆ドルだ。
これらは非常に大きな数字であり、ちょっとした保有量の調整でも世界的に大規模な資金移動を引き起こすだろう。
UBSはG10諸国がドル保有量を仮に5%減らせば、約6700億ドルのドル売りにつながると試算している。G10諸国の多くはもちろん欧州に存在しており、そうした売りの大半は欧州から生じるだろう。
<価格に敏感>
欧州の投資家はこれまでのところ主に株式を売却してきたが、過去10年間、特に欧州中央銀行(ECB)の主要金利がマイナスだった2014年から22年にかけて、米国債に対する投資比率を高めたことも念頭に置くべきだ。
UBSの試算では、ユーロ圏の投資家は14年以降、3.4兆ドルの外国債券を購入している。だから、米国債に対する投資比率をわずかでも減らすような資産再配分を実施しただけでも価格に大きな影響を与える可能性があるだろう。
とはいえ、結局のところアジアの投資家は外国人保有の米国債および政府系債券の約3分の1を保有しており、依然として米国債市場でより大きな影響力を持っているようにみえる。さらに、ユーロ圏、カリブ海諸国、英国の保有分はとりわけ中国などアジア諸国の代理で保有している分も含んでいるため、保有比率はたぶんもっと高くなるだろう。
現時点では、米国資産の大規模な売却は起きておらず、そうした可能性は低いとみられる。しかし、注目すべきなのは民間投資家がここ数年間、米国資産の主要な買い手として中央銀行に代わって保有量を増やしている点だ。
民間投資家は一般的に公的機関よりも価格に敏感だとみなされている。つまり、特に「米国の例外的な強さ」が揺らぎつつあるという見方が本当に定着すれば、こうした保有量はこれまでよりも不安定になるかもしれない。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)