Natasha Ghoneim
[シカゴ 10日 トムソン・ロイター財団] - コンピューター工学と電気工学の学位を持つアフロ・ラティーナの女性、マヤ・デロスサントスさんは、白人男性が多数を占める人工知能(AI)分野でキャリアを積みたいと考えている。
専門家や関係者は彼女のような人材がAIに必要だと話す。
専門家や関係者は、開発者が無意識に組み込んだ視点や偏見のために、急成長中のAIがリスクをもたらす可能性があると警告する。AIが雇用プロセスや医療、金融、法執行のような重要な意思決定をする際に利用されているからだ。
移民二世であるデロスサントスさんは、「社会に存在する不平等や不正義が、重要な場面や環境で利用されるAIの中にも再現されている。そして批判的な見地から検証されることもなく信頼されつつある」と分析。「私は、社会的に疎外された集団がAIの危険性やリスクについて情報を得て、保護されるようにしたい。また、AIからどのように利益を得られるかどうかも理解できるようにしたい」と語った。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の報告書によると、AI業界の従業員は女性の割合が26%で、世界の大学のAI関連学部では身分保障付きの教授職の80%を男性が占めている。
ジョージタウン大が分析した2022年の国勢調査分析データからは、黒人やヒスパニック系もまたAI業界の従業員として過小評価されていることが分かった。
ヒスパニック系は米国内の雇用全体に占める比率が18%以上となっているのに対して、AI技術職の中だと約9%にとどまる。黒人労働者は雇用全体に占める比率がほぼ12%となっているのに対して、技術系AI職の約8%に過ぎない。
<AIの偏見>
デロスサントスさんはブラウン大の人間とコンピューターの相互作用に関する博士課程に進学する予定だ。社会的に疎外された集団に対するAI技術の教育方法だけでなく、プライバシー問題や、アルゴリズムバイアスまたは機械学習バイアスと称されるAIの偏見についても研究したいと考えている。AIの偏見は、社会的な偏見を反映して再生産する結果をもたらす。
偏見は意図せずにある種のAIシステム内に浸透している。たとえば、問題解決技術を開発するソフトウエアエンジニアが、自身の視点や限定的なデータセットを組み込んでしまうからだ。
米アマゾン・ドット・コムは、導入したAI採用ツールが男性を女性よりも優遇して履歴書を選んでいることに気付いて同ツールを廃止した。このシステムは過去10年間にアマゾンに提出された履歴書のパターンを観察して応募者を評価するように訓練されていた。
履歴書の大半が男性から提出されており、業界全体で男性が多数を占めている状況を反映していた。システムは事実上、男性の採用候補者が好ましいと自己学習したのだ。
AI分野職種の包括的な情報網の展開を目指す非営利団体AI4ALLの創設者で最高経営責任者(CEO)のテス・ポズナー氏は「より幅広い人生経験やアイデンティティ、生い立ちのある人たちがAI作成で貢献すれば、異なったニーズを認識し、異なった問いを投げかけ、新しい方法でAIを活用する可能性がより高まるだろう」と語った。
<多様性の推進>
AI4ALLは15年以降、AI分野で就職する際の障壁を乗り越えるために7500人以上の学生を支援しており、デロスサントスさんもその一人だ。
AI4ALLは歴史的に過小評価されてきた集団を対象にし、AI業界の労働人口の多様化を目指している。
リンクトインによると、AIエンジニア職は世界的に最も急成長している職種の一つであり、米国と英国では全職種で最も伸び方が大きい。
ポズナー氏は、多様性の推進とは、教育の早い段階から子どもたちにコンピューターサイエンスの授業を受ける機会を増やすことから始まると述べた。
米国の公立高校の約60%がこのような授業をしているが、黒人やヒスパニック系、ネイティブアメリカンの生徒は授業を受ける機会は比較的少ないとみられている。
ポズナー氏は、過小評価されてきた集団の生徒がAIを一つの職業選択肢として認識し、インターンシップを設けて助言者と結びつけられるようにすることが重要だと語った。
AIにより米社会の多様性を反映させようとする取り組みは、トランプ米大統領による、連邦政府や高等教育機関、企業レベルの多様性・公平性・包括性(DEI)推進活動を制限する動きと逆行している。
米政府のDEI事務局や政策は廃止され、連邦政府の契約職員は採用時にアファーマティブ・アクションの行使が禁止された。企業はゴールドマン・サックスからペプシコに至るまで多様性の推進活動を停止したか縮小した。
レジリエンス&デジタル・ジャスティス・センター創設者でもあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校のサフィヤ・ノーブル教授は、政府のDEI攻撃が社会的に疎外された集団でAI分野の機会を生み出す取り組みを損なうのではないかと懸念する。
ノーブル氏は「どのような形の公民権の進展であれ、抑制する方法の一つは、IT企業やソーシャルメディア企業が公民権や人権にかかわるメッセージにあまりに応じすぎていると主張することだ」と指摘。
「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)のような運動に対する反発や、『反保守的な偏見』を訴える主張にそうした証拠が見て取れる」と付け加えた。
ユネスコによると、AI分野で働く女性は21年から24年の間にたった4%しか増えていない。
進展はゆっくりかもしれないが、ポズナー氏は楽観的だと話した。
同氏は、「包括性という価値に対して、これまで多くのコミットメントがあった」と述べた上で、「社会として包括性とは何か、包括性を全体的にどのように広めるのかについて足掻いている最中とはいえ、そうした姿勢そのものは変わっていないと思う」